社長の疑問
「経理から毎月資料は届く。でも、結局どの数字を見て、何を決めればいいのか」
「試算表は2ヶ月遅れで届く。それで会議をして意味があるのか」
社長が知りたいのは指標の一覧ではなく、自社の会議で毎月どの数字を並べ、悪くなったときに誰が何をするかまで決める形です。
同じ「毎月見る数字」でも、卸売業か製造業か、試算表が翌月に来るか翌々月か、季節性があるか、経理の体制はどうかで、選ぶ項目と取り方は変わります。この記事では8項目の選び方と30分の会議の進め方を整理します。
結論:売上・利益・現金に、原因が分かる数字を少しだけ加える
社長が毎月見る数字は、売上高、粗利額・粗利率、営業利益、現預金残高、13週先までの最低資金残高の5つを基本に、期日超過の売掛金、長期滞留在庫、受注残の3つを加えた8項目以内に絞ります。結果の数字と原因の数字を対にし、当月・計画・前年同月・直近3ヶ月を一枚に並べます。大事なのは数ではなく、悪くなったときに「誰が何をするか」まで決まることです。
どの項目を選ぶかは、業種(製造業なら不良率や外注費)、試算表の到着時期(遅いなら現金・売掛金・在庫・受注残を自社の帳票で先に出す)、季節性の有無で変わります。
だから、指標を増やす前に、既存の資料から8項目以内を選び、差が大きい3項目に「原因/打ち手/担当/期限」を付ける会議に切り替えてください。
なぜ、売上と利益だけでは遅れるのか
今月の売上は、過去の受注や営業活動の結果です。受注が減り始めても、納品待ちの案件があれば売上にはすぐ表れません。逆に、売上が伸びていても、回収の遅れや在庫増加で現金が減ることがあります。
そこで、結果の数字と原因の数字を対にします。売上には受注残、粗利には単価や原価、現金には売掛金や在庫の動きをつなげます。
もう一つの理由は、試算表が遅いことです。税理士から前月分の試算表が届くのが翌々月なら、売上と利益の数字は2ヶ月前の姿です。だから、この記事の8項目のうち現金・売掛金・在庫・受注残は、試算表を待たずに自社の帳票から取る前提にしています。
具体例:年商12億円の卸売会社なら8項目から始める
架空の卸売会社の例です。社長は月次会議で次の一枚を使います。
| 数字 | 確かめること |
|---|---|
| 売上高 | 計画と前年同月からの増減 |
| 粗利額・粗利率 | 売上増が利益につながっているか |
| 営業利益 | 販売費・一般管理費を払った後にいくら残ったか |
| 現預金残高 | 借入で増えただけではないか |
| 13週先までの最低資金残高 | 支払日に不足しないか |
| 期日超過の売掛金 | 回収担当と次の連絡日 |
| 長期滞留在庫 | 発注を止める商品、処分を検討する商品 |
| 受注残 | 来月以降の売上を支える案件があるか |
月商が1億円から1.1億円になっても、粗利率が30%から26%になれば、粗利額は3,000万円から2,860万円へ減ります。「売上達成」で終わらず、値引き・原価・商品構成のどこが原因かを話す必要があります。
8項目をどの資料から取り、何を赤信号とするか
売上・粗利・営業利益は試算表の損益計算書から取ります(粗利の速報は売上×直近の粗利率で仮置き)。現預金は通帳やネットバンキングの月末残高、最低資金残高は自社の13週資金繰り表、期日超過の売掛金は販売管理システムの得意先別残高一覧、滞留在庫は在庫表を最終出荷日で並べたもの、受注残は受注台帳や見積管理表から、試算表を待たずに出します。
赤信号の基本は「前年同月・直近3ヶ月平均と比べて説明できない差があるか」です。目安の数字は業種と自社の過去で変わりますが、例えば次のような状態です。売上が計画比と前年同月比の両方で下回り、得意先上位3社で説明できない。粗利率が直近3ヶ月平均から2〜3ポイント以上動いた。粗利額が増えたのに営業利益が増えていない。期日超過の売掛金が月商の1割を超えた、または同じ得意先が2ヶ月続けて残っている。6ヶ月以上出荷のない在庫の金額が増え続けている。受注残÷月商の月数が前年同月より短く、来月の売上が受注で埋まっていない。
現預金の例です。月末残高が前月の5,000万円から6,000万円に増えました。一見改善ですが、同じ月に3,000万円を新規で借りていれば、借入以外の収支は2,000万円のマイナスです。原因を見ると、期日超過の売掛金が1,500万円増え、在庫が500万円増えていました。残高だけを見ていると、この2,000万円の悪化に気づきません。製造業なら、粗利の原因は値引きより歩留まりや外注費に出ます。卸売業の「値引き」に当たるものが製造業では「材料費率」や「不良率」だと置き換えて、原因の数字を選んでください。
自社で見るポイント
数字には、当月実績、計画、前年同月、直近数ヶ月の推移を並べます。季節性のある会社では前月比較だけで良否を決めません。
さらに、定義と担当者を決めます。受注残に内示を含めるか、滞留在庫を何日で区切るかが毎月変わると、変化を追えません。集計が遅い数字は、速報値として使う範囲と確定時期を決めてください。
製造業なら不良率や設備の停止時間、サービス業なら稼働率や契約継続率なども候補です。ただし、一つ追加したら不要な項目を一つ減らすくらいで十分です。
月次の数字のチェックリスト
- □ 8項目に当月・計画・前年同月・直近3ヶ月が並ぶ(会議の1枚)
- □ 粗利額が販管費の合計を上回っている(試算表)
- □ 借入を除いた当月の資金収支がプラス(通帳・返済予定表)
- □ 13週先まで最低ラインを割る週がない(13週資金繰り表)
- □ 期日超過の売掛金と滞留在庫が前月より減っている(一覧表)
引っかかった項目には、会議で「原因/打ち手/担当/期限」を1行ずつ付けます。全部に対策を付ける必要はなく、差が大きい順に3つまでで十分です。粗利額が固定費を下回っているなら、取引を続けるかは粗利ではなく限界利益(売上から変動費を引いた額)で判断してください。最低ラインを割る週があるなら、2ヶ月前までに回収・支払・借入の対策を決めます。
月次会議の進め方:30分の議題例
数字を読み上げるだけの会議は、30分あれば足ります。次の配分で、報告より決定に時間を使います。
| 時間 | 議題 | やること |
|---|---|---|
| 0〜5分 | 前回決めた行動の結果 | 担当者が「やったか・効いたか」を一言で報告 |
| 5〜10分 | 8項目の一枚を確認 | 差が大きい項目に印を付ける。原因の議論はしない |
| 10〜25分 | 差が大きい3項目の原因と打ち手 | 1項目5分。原因・打ち手・担当・期限を1行に |
| 25〜30分 | 来月までの資金の確認 | 最低残高の週と金額を共有。不足なら銀行対応の日程 |
コツは、資料を会議の前日までに配ることです。会議中に数字を初めて見ると、説明で30分が終わります。取り上げるのは3項目まで。全部を議論すると、どれも決まりません。
参加者は社長、営業責任者、製造や購買の責任者、経理担当の4〜5人で十分です。経理担当には「数字の説明」ではなく「資料を期日までに出すこと」を役割にします。
税理士に頼む「試算表の早期化」
月次会議を機能させる土台は、前月の試算表が翌月15日ごろまでに手元にあることです。今2ヶ月遅れなら、税理士に次の3つを依頼してください。
- 会社側の締め日を決める。請求書の発行、仕入先からの請求書の受け取り、経費精算を翌月5日までに終える。遅れる原因の多くは税理士ではなく、会社側の書類の渡し方にあります。
- 会計ソフトを共有し、銀行口座とクレジットカードの明細を自動で取り込む。手入力の待ち時間が減ります。
- 減価償却費や賞与引当のように年1回まとめて計上している費用を、毎月12分の1ずつ入れてもらう。これがないと、決算月だけ利益が急に減る試算表になります。
「翌月15日」は実務上の目安で、会社の規模や税理士事務所の体制で変わります。どこまで早められるか、まず税理士に聞いてください。
よくある間違い
資料を見栄えよくすることが目的になるケースです。数字が赤く表示されても、原因と対応がなければ経営は変わりません。また、「在庫の目標を達成するために仕入れを止める」など、一つの数字だけを良くして欠品を増やす行動にも注意します。
もう一つは、試算表が来るまで会議をしないことです。現金、売掛金、在庫、受注残は自社の帳票で毎月出せます。試算表が遅い会社ほど、この4つを先に見てください。
次にやること
次回の会議では、既存の資料から8項目以内を選んでください。差が大きい項目を三つだけ取り上げ、「原因/打ち手/担当/期限」を一行ずつ記入します。翌月は数字の報告前に、前回決めた行動の結果を確認しましょう。
同時に、税理士に「前月の試算表を翌月15日までに」と相談し、そのために会社側で何を何日までに渡せばよいかを決めてください。

よくある質問
Q. 経理から毎月資料は届く。でも、結局どの数字を見て、何を決めればいいのか
A. 売上高、粗利額・粗利率、営業利益、現預金残高、今後の最低資金残高を基本に、受注残・期日超過の売掛金・長期滞留在庫など原因が分かる数字を加え、8項目以内に絞ります。差が大きい項目は「原因/打ち手/担当/期限」まで決めましょう。
Q. 毎月見る数字を選ぶとき、最初に何を決めればいいですか?
A. 最初から何十個もの指標を追う必要はありません。社長が毎月見る数字は、会社の結果を示すものと、次の行動を決めるものを合わせて5〜10個に絞ります。大事なのは数ではなく、悪くなったときに「誰が何をするか」まで決まることです。
Q. 試算表が2ヶ月遅れで届きます。それでも月次会議はできますか?
A. できます。現預金、期日超過の売掛金、長期滞留在庫、受注残は試算表がなくても通帳・売掛金一覧・在庫表・受注台帳から出せます。売上と粗利は速報値で仮置きし、試算表が届いた月に確定値へ差し替えてください。並行して、税理士に試算表の早期化を相談します。
Q. 13週の資金繰り表は誰が作ればよいですか?
A. 経理担当が作り、社長が毎月確認する形が現実的です。最初は税理士に一緒に作ってもらい、給与日・仕入決済日・返済日・納税日を日付で入れた型を用意すれば、翌月からは実績の置き換えだけで更新できます。
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