社長の疑問
「税理士に毎月数字を見てもらっている。これとは別に管理会計が必要なのだろうか」
「全社では黒字だが、どの拠点や商品で稼いでいるのかは感覚でしか分からない」
「システムを入れるほどの規模ではない。表計算で何から始めればよいのか」
社長が本当に知りたいのは、管理会計の定義ではなく、今の試算表では答えの出ない「どの拠点を直すか」「どの商品を伸ばすか」を、数字で決められるようになるかです。
同じ「管理会計が必要か」でも、始め方は次の条件で変わります。
- 拠点、商品、顧客のうち、次の3ヶ月で決めたいことは何か
- 試算表に部門コードが付いているか、翌月いつ出るか
- 現場責任者が売上や件数の速報を出せるか
- 本社共通費が全社の費用のどれくらいを占めるか
この記事では、最初の一枚の作り方と、月次で回す手順を整理します。
結論:数字を見ても経営判断ができないなら、小さく始める価値がある
管理会計は、高価なシステムではなく、拠点別や商品別に「売上→直接費→利益」を並べた一枚から始めます。共通費は割り振らず別掲し、月一回30分の会議で「変えること」を一つ決めます。税理士が作る試算表は「会社全体でいくら儲かったか」を示す資料で、「どこで儲かったか」は示してくれません。 その一枚を足すのが管理会計です。
小さく始められるかは、決めたいことが一つに絞れているか、仕訳に部門や商品の区分を付けられるか、試算表が翌月15日までに出るか、で決まります。
だから、年商や規模で要否を決めるより、「次の3ヶ月で決めたいこと」を一つ書き、その判断に必要な数字だけを先月分から一枚にまとめてください。
なぜ、決算書があっても分からないことが残るのか
全社の利益には、好調な部門と不調な部門が合算されています。会計の費目別集計だけでは、特定顧客への手間や商品ごとの稼ぎが分かりません。決算書や税務申告のための会計(財務会計)の数字を土台に、全社の会計とつながる形で社内の判断に合う切り口を加えます。
税理士の仕事は、正しい決算と申告です。拠点別や商品別に分けて見るのは税務には不要なので、頼まなければ出てきません。逆に言えば、仕訳に部門や商品の区分を付けるだけで、今の会計データから作れる資料が多くあります。
具体例:三拠点のうち、どこを直すか
架空の会社では、全社の月間利益が300万円あります。拠点別に、売上から仕入と直接かかる人件費・賃料等を引いた拠点利益は、A拠点600万円、B拠点200万円、C拠点▲100万円(赤字)です。本社共通費400万円を引くと全社300万円につながります。
全社利益だけなら「順調」で終わるところですが、C拠点は見直し対象です。ただし、新規開設直後なのか、既存拠点なのかで判断は違います。新規なら黒字化時期、既存なら価格・稼働・費用の改善余地を確認します。なお、C拠点を閉じても本社共通費400万円は基本的に残ります。共通費を割り振った後に赤字に見える拠点と、直接かかる費用だけで赤字の拠点は、分けて判断します。
最初の一枚:拠点別の管理表
上の例を一枚にすると、次の形になります。列が拠点、行が「売上→直接費→拠点利益」で、共通費は割り振らず下に別掲します。
| 項目 | A拠点 | B拠点 | C拠点 |
|---|---|---|---|
| 売上 | 2,500万円 | 1,500万円 | 800万円 |
| 仕入・材料費 | 1,250万円 | 800万円 | 450万円 |
| 拠点の人件費 | 450万円 | 350万円 | 300万円 |
| 家賃・光熱費・その他直接費 | 200万円 | 150万円 | 150万円 |
| 拠点利益 | 600万円 | 200万円 | ▲100万円 |
拠点利益の合計700万円から、割り振らない本社共通費400万円を引いた300万円が全社の営業利益です。数字の取り方は、売上は請求書の拠点別集計、仕入は仕入伝票の拠点区分、人件費は給与台帳の所属、家賃・光熱費は契約ごとに拠点が決まっています。試算表に部門コードが付いていれば、税理士から拠点別試算表として出してもらえます。
製造業や卸売業で商品別に見る場合も同じ形で、最初の一枚は売上から材料費・外注費など売上に比例する費用だけを引いた「限界利益」までで十分です。工場の人件費や減価償却費は商品に割り振らず、別掲します。「売上が小さい商品は率が高いので伸ばす余地がある」「この商品は値上げか材料費の見直しが要る」と、次に確かめることが決まります。
共通費の扱い方
共通費は次の3つの決まりで扱います。
- 最初は割り振らず、別掲する。判断に使うのは割り振る前の拠点利益・限界利益です。
- 割り振るなら基準(売上比、人数比、面積比)を表に書き、毎月変えない。基準を変えると、拠点の努力と無関係に数字が動きます。
- 撤退や縮小の判断では「やめたら実際に減る費用」だけを引く。上の例でC拠点を閉じても、人員を他拠点へ異動させて抱えたままなら人件費300万円は残り、全社利益は300万円から100万円に下がります。人員も減らせるなら400万円に上がります。閉じる判断は、この差を見てから行います。
自社で見るポイント
最初は、判断したいことを一つ選びます。拠点の改善なら拠点別、商品構成なら商品別、価格交渉なら顧客別です。すべての切り口を一度に作る必要はありません。
次に、売上と直接かかる費用を集計し、共通費は別に表示します。無理に精密な配賦を始めると、集計に時間がかかる割に判断が変わらないことがあります。速報で判断する場合は、未計上費用などの概算を明示し、確定後に差を直します。
導入時のチェックリスト
- □ 次の3ヶ月で決めたいことを一つ書いている(社長のメモ)
- □ 判断に合う切り口を一つだけ選んでいる(拠点別・商品別・顧客別)
- □ 直接費だけで単位別の利益を出し、共通費は別掲している(管理表)
- □ 管理表の売上・利益の合計が試算表と一致している(試算表)
- □ 月一回、決めたことと翌月の結果を記録している(会議メモ)
一致していない、決めたことが記録されていない、という項目があれば、次の「月次運用の手順」に戻ります。
月次運用の手順
管理会計は作ることより、毎月回ることが大切です。締めから2週間以内に判断まで終える流れを決めます。
- 月初5営業日まで:現場責任者が拠点別・商品別の売上と件数の速報を出す。
- 月初10営業日まで:経理が試算表の数字で管理表を更新し、合計を試算表と照合する。未計上分は概算で明記。
- 翌月15日まで:社長と現場責任者が30分の会議で「今月確かめること」「変えること」を一つ決める。
- 翌月の会議:前回決めたことの結果を数字で確認し、続けるかやめるかを決める。
試算表が翌月末にしか出ない会社は、まず税理士に「翌月15日までに出せる形」を相談します。管理表が遅れる原因の多くは、試算表の遅れです。
よくある間違い
システムを先に買い、何を決めるための数字かを後から考えることです。また、完成度を求めすぎて毎月の資料が遅れると、現場の改善に間に合いません。税理士や経理へ丸投げするのも避けたいところです。
もう一つは、管理表の数字が試算表と合っていないまま使うことです。管理表の利益が試算表より多いと、現場は良い数字を信じ、社長は決算で驚きます。合計が合わない月は、差の理由を欄外に書いてから使います。
税理士・経理に頼むこと
頼む内容を具体的にすると、追加の手間が小さく済みます。税理士には、仕訳に部門コード(拠点・商品)を付ける設定、拠点別試算表を毎月出すこと、共通費と直接費の科目の切り分け、試算表を翌月15日までに出す段取りを頼みます。経理には、管理表の毎月更新、試算表との合計照合、未計上費用の概算記入を頼みます。
何を判断するかの設定、区分ルールの決定、会議での判断と結果の確認は、社長と現場責任者が担います。拠点や商品の評価を税理士に、改善策の立案を経理に求めても出てきません。
税理士との会話例
| 税理士から聞かれること | 答え方 |
|---|---|
| 「拠点別に出すとき、共通費はどう扱いますか」 | 「割り振らず、本社として別に出してください。判断は拠点の直接利益で行います」 |
| 「請求書や領収書に拠点が分かる情報はありますか」 | 「請求書に拠点名を書く運用にします。分からないものは本社扱いで構いません」 |
| 「翌月15日に出すなら、現場の資料はいつ揃いますか」 | 「売上と仕入は5営業日までに送ります。未計上の経費は概算で構いません」 |
銀行から「拠点ごとの採算はどうですか」と聞かれたときも、この一枚があれば「A拠点が利益の中心で、C拠点は今期中に黒字化する計画です」と数字で答えられます。
次にやること
「次の3ヶ月で決めたいこと」を一つ書き、その判断に必要な数字だけを集めてください。表計算でも構いません。月一回、結果と行動を確認し、使われない項目は減らします。数字から一つの判断が変われば、管理会計は機能し始めています。
最初の一枚は、上の拠点別の表を自社の数字に置き換えるだけで作れます。まず先月分を一枚作り、その表を見ながら税理士に部門コードの設定を頼んでください。

よくある質問
Q. 税理士に毎月数字を見てもらっている。これとは別に管理会計が必要なのか
A. 税理士と見る数字は、主に決算や税務申告のための会社全体の数字です。拠点別・商品別・顧客別に「どこで稼ぎ、どこで損をしているか」を判断したいなら、その数字に切り口を加える管理会計が役立ちます。まずは決めたいことを一つに絞って始めます。
Q. 管理会計を始めるとき、最初に決めることは?
A. 何を決めるための数字かです。拠点の改善なら拠点別、商品構成なら商品別、価格交渉なら顧客別というように判断したいことを一つ選び、その判断に必要な数字だけを集めます。
Q. 表計算ソフトで足りますか。管理会計のシステムは必要ですか?
A. 最初の一枚は表計算で足ります。拠点や商品が10を超え、毎月の更新に半日以上かかるようになったら、会計ソフトの部門別機能や販売管理システムとの連携を検討します。先にシステムを入れると、何を見たいかが決まらないまま設定に時間を取られます。
Q. 税理士に部門別の試算表を頼むと、顧問料は上がりますか?
A. 仕訳の手間が増えるので、追加費用を求められることがあります。金額は事務所ごとに違うので、頼む前に「部門コードを付けるとどれくらい作業が増えるか」を確認してください。請求書に拠点名を書くなど、自社側で区分を分かりやすくすれば手間は小さくなります。
利益構造チェック
数字を見ても次の判断が決まらない方へ。御社が決めたい課題から、最初に作る管理資料と、商品・顧客・拠点のどの単位で利益を見るかを整理します。
