社長の疑問

「まだ支払いはできている。でも最近、資金繰りが窮屈だ。危なくなる前に何を見ればいいのか」
「黒字のはずなのに、なぜ現金が増えないのだろうか」
「銀行に相談するのは、本当に足りなくなってからでよいのか」

社長が知りたいのは、残高がまだある今のうちに何を見れば悪化の兆しが分かるか、どの数字が動いたら銀行や税理士に相談すべきか、です。

同じ「窮屈だ」でも、借入で残高を保っているだけなのか、回収が遅れているのか、在庫が積み上がっているのか、返済が重いのかで、打つ手も相談先も変わります。この記事では、手元の資料で毎月見られる7つのサインと最初の一手を整理します。

結論:残高だけでなく、現金が戻る速さと支払いの変化を見る

資金繰りの悪化は、残高不足より前に、回収の遅れ、在庫の積み上がり、支払条件の変化として表れます。単独の数字で危険と決めず、前年同月や3ヶ月前と比べて複数の変化が重なっていないかを確かめます。 月商5,000万円の会社で回収と在庫がそれぞれ10日延びると、利益が変わらなくても約2,840万円の現金が消えます。銀行への相談は、資金が尽きる2〜3ヶ月前が原則です。

見るべき変化は次の5つです。

  • 借入を除いた3ヶ月の資金収支がマイナスでないか
  • 売掛金と在庫の回転日数が前年同月から延びていないか
  • 後ろへずらした支払いが増えていないか
  • 営業収支から長期借入の約定返済を引いた額がプラスか
  • 給与日・返済日・納税日の直後に最低ラインを割らないか

借入で現金残高を保っている場合は、借入前の資金収支を見なければ悪化に気づけません。試算表を待たず、通帳・売掛金一覧・在庫表で今月から点検を始めてください。

なぜ、黒字と口座残高だけでは気づけないのか

利益は出ていても、売上代金の回収前に仕入や給与の支払いが来ます。借入で穴を埋めれば残高は戻りますが、原因が残る限り不足を繰り返します。

もう一つの理由は、試算表が遅いことです。2ヶ月遅れで届く会社では、気づいた時点で2ヶ月分の穴が広がっています。この記事のサインは、通帳・売掛金の一覧・在庫表など手元の資料で毎月見られるものにしています。

具体例:残高が横ばいでも実態は悪化している

架空の会社で、現預金は3ヶ月前も現在も3,000万円です。一見変化がありませんが、この間に2,000万円を新規借入しています。この間に返済などほかの借入の動きがなかったとすると、借入以外の収支で2,000万円の資金が減ったことになります。

原因を調べると、回収期日を超えた売掛金が1,200万円増え、在庫も800万円増えていました。残高だけでなく、借入と資産の動きを一緒に見れば、回収と発注への対策が必要だと分かります。

数値例:回収と在庫が10日延びると、現金はいくら減るか

売掛金と在庫は「現金が形を変えて寝ている」ものです。売上が同じでも、回収までの日数(売掛金回転日数)や売れるまでの日数(在庫回転日数)が延びれば、その分だけ現金が減ります。売掛金の増加額は「1日あたり売上(月商÷30日)×延びた日数」、在庫の増加額は「1日あたり売上原価×延びた日数」が目安です。

月商5,000万円、売上原価率70%、売上は一定と置いて計算します。

項目 月商5,000万円の会社
1日あたり売上 約167万円
売掛金回転日数が10日延びると 約1,670万円の現金減
1日あたり売上原価(原価率70%) 約117万円
在庫回転日数が10日延びると 約1,170万円の現金減
両方が10日延びた場合の合計 約2,840万円の現金減

回収と在庫がそれぞれ10日ずつ延びると、利益が変わらなくても月商の半分以上の現金が消えます。逆に、回収を5日早め、在庫を5日分減らせば1,400万円強が戻ります。借入で埋める前に、この日数を動かす余地を見てください。

自社で計算するときは、売掛金回転日数=売掛金残高÷(月商÷30)、在庫回転日数=在庫残高÷(月間売上原価÷30)です。残高は貸借対照表、月商と売上原価は損益計算書から取り、直近3ヶ月の平均と前年同月で比べます。

自社で見る7つのサイン

危険かどうかの目安は業種や取引条件で変わるため、一律の数字では決められません。共通するのは「自社の過去(前年同月・3ヶ月前)と比べて、売上や受注で説明できない変化があるか」です。各サインに、確認の仕方と最初の一手を添えます。

  1. 借入を増やしても現金が増えない。 3ヶ月間の現預金の増減から新規借入額を引き、返済額を足し戻した額がマイナスなら、借入で残高を保っているだけです。当座貸越をいつも上限近くまで使っている状態も同じサインです。引っかかったら、原因を売掛金・在庫・赤字・返済のどれかに切り分けます。追加借入の相談はその後です。
  2. 売掛金の回収が遅くなる。 売掛金回転日数を前年同月と比べ、期日を過ぎた売掛金を得意先別に金額と件数で出します。引っかかったら、期日超過の上位3社に今週中に社長が直接連絡します。
  3. 在庫が売れるまでの日数が長くなる。 季節仕入れか、売れ残りかを確認し、仕入から6ヶ月以上動いていない品目を金額で拾います。引っかかったら、滞留品は値引き処分か仕入停止を決め、発注を「売れた分だけ補充する」に戻します。
  4. 支払日を後ろへ動かすことが増える。 直近3ヶ月で当初期日より後ろにずらした支払の件数と金額を数え、合意のある延長か一方的な遅れかを分けます。一方的な遅れは相手と条件を話し合います。自社が発注側で下請事業者への支払を延ばす場合は、取適法(旧下請法)の支払期日の定めに触れないか確認が必要です。
  5. 返済後の収支が毎月マイナスになる。 営業の収支から長期借入の約定返済を引いた額が3ヶ月連続でマイナスなら要注意です。短期借入は売上代金の回収で返すお金なので、この比較には含めません。引っかかったら、返済が重なる月がないかを見て、銀行に借換えや期間の見直しを相談します。
  6. 粗利額が減り、固定費を賄いにくくなる。 粗利率ではなく粗利の「額」を月次で追い、固定費の合計と比べます。引っかかったら、値引きが増えた得意先、原価が上がった品目を特定します。取引を続けるかの判断は、限界利益(売上から変動費を引いた額)で行います。
  7. 将来残高が、会社の最低ラインを割る。 月末だけでなく給与日・仕入決済日も調べます。最低ラインは「給与1ヶ月分+固定費1ヶ月分」など自社で決めた額です。引っかかったら、割る日の2ヶ月以上前に、金額と日付付きの対策を並べ、足りなければ銀行に相談します。

納税や給与の支払いに支障が見え始めているなら、予兆ではなく、日次で資金を確認して早急に関係先へ相談する段階です。税金や社会保険料の納付が難しい場合も、期限前に税務署や年金事務所へ相談してください。

月次の点検チェックリスト

  • □ 借入前の3ヶ月資金収支がプラス(通帳・返済予定表)
  • □ 売掛金・在庫の回転日数が前年同月から延びていない(試算表・残高一覧)
  • □ 当初期日より後ろにずらした支払が増えていない(買掛金一覧)
  • □ 営業収支から長期借入の約定返済を引いた額がプラス(資金繰り表)
  • □ 給与日・返済日・納税日の直後も最低ラインを割らない(13週表)

よくある間違い

季節的な在庫増加を異常と決めつける一方、毎年続く不足を「季節のせい」で片づけることです。前年同月と比べ、売上や受注で説明できない増加を調べます。

また、支払いを一方的に遅らせると供給や信用を損ねます。厳しい見通しが出た時点で、銀行や専門家に状況と対策を共有し、必要な調整を進めます。

もう一つは、相談が遅れることです。資金が尽きる直前に銀行へ行くと、リスケ(返済条件の変更)しか残らないことがあります。リスケはその後の新規融資が受けにくくなるため、追加融資や借換えが選べる段階で相談してください。

銀行・税理士にどう伝えるか

銀行が知りたいのは「なぜ悪化したか」「何を直すか」「いくら必要か」「どう返すか」の4点です。この順番で話せるように準備します。

聞かれること 答え方
資金が窮屈になった原因は何ですか 主因は回収の遅れです。回転日数が45日から58日に延びました
改善策と、いつ効くかを教えてください 期日超過の上位3社に私が直接交渉し、11月末までに回収します
必要な金額と使い道は つなぎの運転資金2,000万円で、12月の給与日に不足します
返済の見通しは 利益+償却費が年3,000万円、年間返済は2,400万円です

数字は架空の例ですが、「原因→対策→必要額→返済」を数字と日付で言えることが、追加融資か借換えかリスケかの分かれ目になります。

面談前の持参資料

  • 13週の資金繰り表(融資が実行された場合と、されない場合の両方)
  • 直近の試算表と全借入の返済予定表
  • 売掛金の得意先別残高一覧と期日超過の一覧
  • 在庫表と滞留品の処分計画、受注残・主要得意先の見込み

税理士に頼むこと
資金繰り表の作成支援(給与日・返済日・納税日を日付で入れた13週表)と、試算表の早期化(翌月15日までに前月分)の2つです。納税資金の見込みと、支払が難しいときの税務署・年金事務所への事前相談の手順も確認してください。

次にやること

今週、13週の資金繰り表を更新し、未入金の上位先、長期滞留在庫、返済予定を並べてください。対策には「確保できる金額」と「間に合う日付」を付けます。融資が未確定なら、確定した入金としては扱わず、不成立のケースでも不足額を確認します。

チェックリストで2つ以上に引っかかり、最低ラインを割る日が見えているなら、その2ヶ月前までに銀行へ相談する日程を決めます。

資金繰りが危ないサインは?社長が早めに確認したい7つの変化

よくある質問

Q. まだ支払いはできている。でも最近、資金繰りが窮屈だ。危なくなる前に何を見ればいいのか

A. 残高だけでなく、借入を除いた資金収支、売掛金の回収遅れ、在庫の増加、支払条件の変化を、前年同月や3ヶ月前と比べます。複数の変化が重なっていれば、13週の資金繰り表で不足する時期を確認します。

Q. 危ないサインに気づいたら、最初に何をすればよいですか?

A. 13週の資金繰り表を更新し、いつ・いくら不足しそうかを確認します。不足が見えたら、回収・在庫・支払いの対策に金額と期日を付け、早めに銀行や専門家へ相談します。

Q. 銀行に相談すると、かえって警戒されて融資が止まりませんか?

A. 資金繰り表と対策を持って早めに相談する会社は、銀行から見ると「状況を把握している会社」です。警戒されるのは、不足する直前に説明なしで駆け込む場合です。相談が早いほど、リスケではなく追加融資や借換えという選択肢が残ります。

Q. 税金や社会保険料が払えそうにないときは、どこに先に相談すべきですか?

A. 期限前に、税金は所轄の税務署、社会保険料は年金事務所に相談します。分割納付などの相談は期限後でも可能ですが、延滞税や督促を避けるためにも期限前が原則です。並行して税理士に納税資金の見込みを出してもらい、銀行への相談では納税予定も資金繰り表に入れて説明します。

手元資金チェック

資金が足りなくなる前に、60分の無料相談で原因と期限を確認しませんか。回収、在庫、返済、支払予定をもとに、不足する時期と優先して打つ対策を整理します。

関連記事