社長の疑問

「借入残高は増えていないのに、毎月の返済が苦しい。うちの返済額は多すぎるのだろうか」
「利益は出ている。それでも返済のたびに残高が薄くなるのはなぜなのか」
「銀行に返済の相談をしたら、リスケ扱いにされて次の融資が止まらないだろうか」

社長が知りたいのは、自社の返済額が稼ぐ力に対して重いのかを何と比べれば分かるか、来年の返済がいつ・いくら増えるか、銀行にどう切り出せば借換えで済むか、です。

同じ「借入2億円」でも、あと3年で返すか10年で返すか、据置期間がいつ終わるか、増収で売掛金と在庫が先に膨らんでいるかで答えが変わります。この記事では、返済負担の点検と銀行への伝え方を整理します。

結論:年間元本返済を、返済前に残る現金と比べる

借入の安全性は、残高や月商倍率では判断できません。長期借入の今後12ヶ月の元本返済を、税引後利益+減価償却費から運転資金の増加と設備更新を引いた「返済前に残る現金」と比べます。 本文の例では、利益と償却費の合計4,500万円に対して返済3,600万円で余裕に見えても、運転資金増と設備更新を引くと900万円足りません。この比較を今年度と翌年度の2年分行います。

結論を左右するのは次の要因です。

  • 返済期間の長さと、据置期間の終了時期
  • 増収で先に出ていく運転資金の増加額
  • 避けられない設備更新の額
  • 手形貸付など短期借入を、長期の約定返済と分けて数えているか

残高が増えていないのに苦しい原因は、返済期間の短さ、据置期間の終了、増収による運転資金の先出しのどれかがほとんどです。まず借入一覧と返済予定表を並べ、翌年度の返済がいくら増えるかを確かめてください。

なぜ、利益と減価償却だけでは足りないのか

税引後利益に減価償却費を足す方法は、現金を生む力をつかむ出発点になります。銀行も、返済に回せるお金の目安としてよく使います。ただし、在庫や売掛金が増えれば現金は減り、設備更新でも支出します。

また、手形貸付などの短期借入の期日一括返済は、毎月の約定返済とは分けて確認します。在庫や売掛金に見合う短期借入は、利益ではなく売上代金の回収で返す性格のお金だからです。

具体例:簡易的には余裕があっても、実際には不足する

架空の会社で、税引後利益は3,000万円、減価償却費は1,500万円、合計4,500万円です。長期借入の年間元本返済(契約で決まった分割返済)は3,600万円なので、単純比較では900万円の余裕があります。

しかし、売掛金・在庫・買掛金を合わせた運転資金が800万円増え、必要な設備更新に1,000万円を使うなら、返済前の現金は概算2,700万円です。元本返済3,600万円に対し900万円不足します。

この例では税引後利益に利息費用を反映済みとし、ほかの資金増減と税金の支払時期のずれは省略しています。期日に更新する前提の短期借入は3,600万円に含めていません。

もう1社:製造業H社(月商5,000万円)で同じ計算をする

H社は税引後利益2,000万円、減価償却費2,500万円で合計4,500万円です。運転資金の増加(売掛金+在庫−買掛金の前期比)は200万円、必要な設備更新は1,500万円なので、返済前に残る現金は2,800万円。長期借入の年間元本返済2,400万円に対して400万円の余裕があります。

機械が多く減価償却費が大きい会社は、利益が小さめでも返済前の現金が残ります。逆に、増収で売掛金と在庫が先に膨らむ会社は、利益が大きくても返済前の現金が減ります。その不足は稼ぐ力の問題ではなく、増えた運転資金を長期借入の返済と同じ財布で賄っている点にあり、増収分の運転資金は短期の枠で回すのが筋です。

自社で計算する手順

  1. 直近決算の損益計算書から税引後利益と減価償却費を取り、足します。
  2. 前期と当期の貸借対照表から、売掛金+在庫−買掛金をそれぞれ計算し、差額を運転資金の増加とします。増えていれば引き、減っていれば足します。
  3. 固定資産台帳と設備投資計画から、今後12ヶ月に避けられない設備更新の額を取り、引きます。
  4. 返済予定表から、長期借入の今後12ヶ月の元本返済を合計します。手形貸付や当座貸越などの短期借入は含めず、別に書きます。
  5. 3で残った現金と4を比べます。マイナスなら、次の「自社で見るポイント」で原因を分けます。

自社で見るポイント

銀行別・契約別に、残高、金利、毎月元本返済、最終返済日、据置終了日を並べます。全借入を合計し、今後12ヶ月と、その次の年度の負担も確認してください。

据置終了と期日集中の見方:H社の借入一覧

H社の借入一覧で、2026年10月からの12ヶ月と、その次の年度の元本返済を並べます。

借入 毎月元本 据置終了・最終返済 今後12ヶ月/翌年度
A銀行・長期(新工場)残高1億2,000万円 150万円 2027年3月・2033年11月 900万円/1,800万円
B銀行・長期(運転)残高1,260万円 60万円 ―・2028年6月 720万円/540万円
公庫・長期(設備)残高5,525万円 65万円 ―・2033年10月 780万円/780万円
長期借入の合計 2,400万円/3,120万円
C銀行・手形貸付(短期)5,000万円 期日一括 2027年1月に更新予定 別枠

今後12ヶ月の元本返済は2,400万円で、返済前の現金2,800万円に対して400万円の余裕があります。ところが翌年度は、A銀行の据置が終わって12ヶ月分の返済が乗り、3,120万円に増えます。返済前の現金が同じ2,800万円なら320万円足りません。今は苦しくなくても、来年度に苦しくなることが1年前に分かります。

見るのは3点です。据置終了で年間返済がいくら増えるか。B銀行のように完済が近い借入があれば、その後に返済がいくら減るか。C銀行の手形貸付が更新されなかった場合に、期日にいくら現金が必要か。3つ目は「借入更新なし」のケースとして資金繰り表に置いておきます。

余裕が小さければ、利益改善、回収・在庫改善、投資時期の調整を検討します。それでも期間と資金回収が合わない場合は、借換えや返済条件の相談が候補になります。条件変更には金融機関の審査・合意が必要で、当然に実行できるとは限りません。

返済負担のチェックリスト

  • □ 今後12ヶ月の長期借入の元本返済が返済前の現金より小さい(返済予定表)
  • □ 翌年度も同様で、据置終了で急に増える借入がない(借入一覧・返済予定表)
  • □ 短期借入が更新されないケースでも期日の支払いに耐えられる(資金繰り表)
  • □ 増収分の運転資金を長期借入の返済と同じ財布で賄っていない(貸借対照表)
  • □ 返済が集中する月と賞与・納税の月が重なっていない(12ヶ月表)

すべて「はい」なら、残高が多くても返済負担は健全です。引っかかった項目があるときの対処は、次の「よくある間違い」と「借換えの相談」で説明します。

よくある間違い

返済額を減らせば経営改善が終わると考えることです。月額が下がっても返済期間が延び、総利息が増える場合があります。赤字が続く事業なら、返済条件だけでなく損失の原因を直さなければなりません。

次に多いのが、借換えとリスケを混同することです。借換え(一本化)は、複数の長期借入を1本にまとめ、返済期間を延ばして月々の負担を下げる新しい融資で、銀行の審査を通る前提なので、その後の融資への影響は小さく済みます。リスケは、既存の契約の返済額を減らしてもらう条件変更で、銀行内の評価が下がり、その後は新規融資を受けにくくなります。順番は、まず借換え、それでも合わなければリスケです。

借換え(一本化)を銀行に相談するとき

相談のタイミングは、資金繰り表で不足が見えた時点、できれば据置終了や不足月の半年前です。H社なら、翌年度の不足320万円が見えた2026年のうちに、A銀行に相談します。伝えるのは「返済が苦しい」ではなく、「返済に回せる現金に対して来年度の約定返済が重くなる見込みなので、期間を延ばした形に組み替えたい」という数字の話です。

聞かれること 答え方
なぜ今、借換えが必要なのですか 来年4月の据置終了で年間返済が3,120万円に増えるためです
返済原資は何ですか 利益と償却費から設備更新と運転資金増を引いた2,800万円
業績が悪化したのではないですか 利益は前期並みです。返済の山が1年前に分かり早めの相談です
一本化する借入はどれですか 御行の新工場資金と公庫の設備資金です。B銀行は来年完済です

コツは、リスケという言葉を使わないことです。銀行が聞きたいのは、返済を減らしたい意思ではなく、組み替えた後に返し続けられる根拠です。返済前に残る現金と、翌年度の返済の増え方を数字で言えれば、話は前に進みます。

面談前に用意する資料

  • 直近3期分の決算書と直近の試算表
  • 借入一覧(銀行別・契約別に残高、金利、毎月元本、据置終了日、最終返済日)
  • 12ヶ月の資金繰り表(「標準」「利益減少」「借入更新なし」の3ケース)
  • 設備更新の予定と見積、回収・在庫の改善策

次にやること

借入一覧と月次資金繰りをつなぎ、返済が集中する月を特定してください。「標準」「利益減少」「借入更新なし」のケースで残高を確認し、不足が見えるなら期日前に改善案と必要条件を整理して銀行へ相談します。

返済額を減らすことが目的ではありません。会社が生み出す現金の範囲で、返済が続けられる形に組み替えておくことが目的です。その相談が早いほど、借換えで済む可能性が高くなります。

借入返済が重すぎる?年間返済額と残る現金を比べる点検方法

よくある質問

Q. 借入残高は増えていないのに、毎月の返済が苦しい。うちの返済額は多すぎるのだろうか

A. 残高ではなく、長期借入の年間元本返済を、「税引後利益+減価償却費」から運転資金の増加と必要な設備更新を差し引いた現金と比べます。返済が上回る状態が続くなら、稼ぐ力に対して返済が重すぎるサインです。

Q. 返済負担を点検するとき、最初に何をすればよいですか?

A. 銀行別・契約別に借入一覧を作り、毎月の元本返済額、最終返済日、据置終了日を並べます。そのうえで月次の資金繰り表につなぎ、返済が集中する月を確認します。

Q. 借換えとリスケは、何が違うのですか?

A. 借換えは、既存の借入をまとめて返済期間の長い新しい融資に組み替えることで、銀行の審査を通る通常の融資です。リスケは、既存の契約の返済額を減らしてもらう条件変更で、銀行内の評価が下がり、その後の新規融資を受けにくくなります。まず借換えを相談し、リスケは最後の手段にしてください。

Q. 据置期間を長く取ってもらうのは、銀行の心証に悪いですか?

A. 設備投資の直後や、増収で運転資金が先に出る時期に据置を置くのは、むしろ合理的な設計です。悪く見られるのは、据置が終わったときの返済増を把握していない場合です。据置終了後の年間返済と返済前の現金を並べた表を見せれば、心証は下がりません。

借入余力チェック

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