社長の疑問

「売掛金が増えている。売上が伸びたからなのか、回収が悪くなっているのか、どう見分けるのか」
「経理から『売掛金が3,000万円増えました』と聞いたが、問題なのかも分からない」
「銀行に『売掛金が増えていますね』と聞かれたら、何と答えればいいのか」

社長が知りたいのは総額ではありません。増えた分のうち、いくらが放っておいてよい増収分で、いくらが今月中に電話を入れるべき延滞なのか。それを銀行にどう説明するか、です。

同じ「売掛金が増えた」でも、原因と対応は次の条件で変わります。

  • 掛け売上が同じ時期にどれだけ伸びたか
  • 得意先ごとの締め日・支払日(回収条件)が変わっていないか
  • 期日超過の請求があるか、検収遅れなど先方の資金難以外の理由で止まっていないか

この記事では成長時の資金需要全体ではなく、増えた売掛金を請求ごとに分解する方法に絞ります。

結論:残高を、期日どおりの回収待ちと期日超過に分ける

先に「以前と同じ回収条件なら売掛金はいくらか」を、直近の月間掛け売上×従来の回収月数で計算します。実際の残高がそれを超える分だけを請求ごとに調べれば、原因はほぼ特定できます。 月間掛け売上が5,000万円から6,000万円に伸び、回収月数が2ヶ月なら、1.2億円までは増収で説明でき、実際の1.3億円との差1,000万円が調べる対象です。

増えた分は、増収による増加、回収条件の長期化、延滞・停滞の3つに分かれ、対応も、銀行に相談する、受注条件を見直す、入金日を約束してもらう、と違います。

だから最初にやるのは督促ではなく、未入金の請求を期日からの経過日数で並べた売掛金年齢表を作ることです。

なぜ、売掛金総額だけでは原因が分からないのか

同じ1億円でも、来週すべて回収できる場合と、半年以上払われていない分を含む場合では意味が違います。そこで売上の動きに加え、請求ごとの期日と実際の入金日を見ます。請求漏れ、検収の遅れ、請求内容の相違、先方の資金難などで対応が変わります。

具体例:増えた3,000万円を分ける

架空の会社で、月間の掛け売上が5,000万円から6,000万円へ20%増え、売掛金は1億円から1.3億円へ増えました。

回収条件が変わらなければ、売掛金は売上に比例して増えるため、従来と同じ条件での残高は約1.2億円(1億円×1.2)です。残り1,000万円が、納品時期の偏り、回収条件の変更、入金遅れなどを調べる対象です。これだけで延滞と断定はできません。

請求別に確認したところ、A社の検収遅れ600万円と、B社の期日超過400万円が見つかったとします。「売掛金が増えた」という一つの数字を、行動できる単位へ分解します。

別のパターン:売上は同じなのに条件の変更で増える

製造業で、月間の掛け売上2億円、売掛金4億円(2ヶ月分)の会社に、新しい大口の得意先(月3,000万円)が「月末締め翌々月末払い」を条件にしてきたとします。2ヶ月条件の得意先の売掛金は1億7,000万円×2ヶ月=3億4,000万円、新規先は3,000万円×3ヶ月=9,000万円で、合計は4億3,000万円です。

売上が1円も増えていないのに、売掛金は3,000万円増えます。増収による増加は利益も一緒に増えますが、条件の長期化による増加は利益を生まず、資金だけを固定します。受注時に条件を見る理由はここにあります。

自社で計算する手順

  1. 月間の掛け売上を出します。試算表の売上高から現金売上を除き、売掛金と同じ税込・税抜にそろえます。
  2. 従来の回収月数を出します。過去12ヶ月の平均売掛金残高÷平均月間掛け売上です。
  3. 「同じ条件なら今いくらか」を出します。直近の月間掛け売上×回収月数です。
  4. 実際の売掛金残高との差が、請求ごとに調べる金額です。

回収月数は業種や締め・支払条件で違うので、他社と比べるのではなく自社の過去と比べてください。

自社で見るポイント

確認欄 使い方
得意先・請求番号・金額 二重計上や消込み漏れを避ける
契約上の期日 何日遅れているかを判定
入金予定・確度 資金繰り表へ反映
遅延理由・担当者 次の確認を具体化
次回連絡日 放置を防ぐ

期日前、期日超過30日以内、31〜60日、61日以上など、自社に合う区分で一覧にします。日数区分は管理例であり、安全・危険の一律基準ではありません。

回収日数を使う場合は、対象となる債権の範囲(受取手形や電子記録債権を含めるか)と税込・税抜をそろえます。

売掛金年齢表の作り方

上の確認欄を、請求ごとに期日からの経過日数で並べたものが「売掛金年齢表」です。先ほどの例で作ると、期日前が1億2,600万円、超過1〜30日が250万円、31〜60日が150万円(いずれもB社)で、A社の600万円は検収待ちとして期日前に入ります。期日超過の行には「今月中に一部入金と回答。10/2に予定日を確定」のように状況と次回連絡日を書きます。

作り方は次のとおりです。

  1. 販売管理ソフトの請求一覧(なければ得意先元帳)から、未入金の請求を請求番号ごとに取り出します。
  2. 通帳の入金と突き合わせて消し込みます。
  3. 契約上の期日から月末時点の経過日数で区分に振り分けます。
  4. 期日超過の請求には、営業担当が聞いた理由と次回連絡日を書きます。
  5. 月次の締め後、5営業日以内に更新します。試算表を待つ必要はありません。

正常な増加と延滞の切り分け

年齢表ができると、増えた売掛金を3種類に分けられます。

種類 見分け方 対応
増収による増加 売上×回収月数で説明できる 増加運転資金として銀行に相談
条件の長期化 売上は同じで回収月数が伸びた 受注条件の見直し、前受金の交渉
延滞・停滞 期日超過の欄に金額がある 理由を確認し入金日を約束してもらう

上の例では、増えた3,000万円のうち2,000万円が増収による増加、600万円が検収待ちの停滞、400万円が延滞です。同じ「増えた」でも、銀行に相談すべき分と、社内で回収に動くべき分は違います。

売掛金管理のチェックリスト

  • □ 掛け売上×回収月数で「同じ条件なら今いくらか」を計算した(試算表)
  • □ 期日前と期日超過を日数区分で分けた年齢表がある(請求一覧・通帳)
  • □ 期日超過の請求すべてに遅延理由と次回連絡日がある(年齢表)
  • □ 得意先ごとの締め日・支払日を一覧にしている(取引条件一覧)
  • □ 期日超過分を入金確度別に資金繰り表に載せている(資金繰り表)

引っかかった項目があれば、この後の「よくある間違い」と「伝え方」を参考にしてください。

よくある間違い

「長い付き合いだから」と確認を先延ばしすることです。一方、理由を調べず一律に強い督促をすると、請求間違いや検収問題を解決できません。営業と経理で事実をそろえ、対応を決めます。

もう一つは、延滞している得意先に売り続けることです。期日超過が出た先には、次の受注の前に入金を確認するか、与信上限を下げます。売り続けるかどうかは、粗利ではなく限界利益(売上から運賃や外注費など売るたびに出ていくお金を引いた額)が、回収できない危険に見合うかで判断します。

回収が遅れている得意先への伝え方

催促は、遅れの日数に応じて段階を分けると角が立ちません。最初は経理からの事務連絡にすると、営業の関係を傷つけずに済みます。

  • 期日の翌日〜1週間(経理から先方経理へ):「〇月末期日の請求書番号△△、□□万円のご入金がまだ確認できておりません。お振込予定日をお知らせいただけますでしょうか」
  • 2週目〜30日(営業担当から先方担当へ):「ご入金予定日をいつとお考えでしょうか。社内の資金計画に入れる必要がありますので、日付をいただければ助かります」
  • 30日超(社長から先方社長へ、書面も添える):「〇日までに全額が難しければ、分割のご提案をいただけないでしょうか。その間の新規のご注文は、入金の確認後にお受けする形にさせてください」

いずれの段階でも、「いつ」「いくら」を先方に言ってもらい、日付を年齢表に記録します。約束の日に入金がなければ次の段階に進みます。

銀行に「売掛金が増えていますね」と聞かれたら

銀行は売掛金を月商で割った「売掛金回転期間」の推移を見ています。長く滞留した売掛金は資産から差し引いて評価されることもあるため、延滞と正常な増加を分けて答えられるかで評価が変わります。

  • 「売掛金が増えた理由は」→「掛け売上が月5,000万円から6,000万円に伸びた分で2,000万円、検収待ちが600万円、期日超過が400万円です」
  • 「回収条件は変わっていませんか」→「主要先は変わりません。新規の1社だけ翌々月末払いで、年齢表で分けて管理しています」
  • 「期日を過ぎた売掛金は」→「B社の400万円です。入金予定日を確認済みで、新規注文は入金確認後にしています」
  • 「増加運転資金はいくら必要ですか」→「増収分の売掛金と在庫の増加で3,000万円です。延滞分は融資ではなく回収で対応します」

増収分は短期の運転資金融資の対象になりやすい一方、延滞分を融資で埋めようとすると、回収管理ができていない会社と見られます。

面談前に用意する資料

  • 売掛金年齢表(期日超過分には理由と入金予定日を記入)
  • 得意先別の売上上位と回収条件の一覧
  • 直近の試算表と、向こう6ヶ月の資金繰り表
  • 新規の大口先があれば、その取引条件と与信上限

次にやること

まず期日を超えた請求上位10件を確認し、入金予定を更新してください。次に、新規取引や追加受注時の入金条件、前受金、与信上限を見直します。回収月数が2ヶ月から1.5ヶ月に縮まれば、月間掛け売上6,000万円の会社では3,000万円が一度だけ戻り、借入の返済や運転資金に回せます。

売掛金が増えると資金繰りはどうなる?回収遅れを見分ける管理方法

よくある質問

Q. 売掛金が増えている。売上が伸びたからなのか、回収が悪くなっているのか、どう見分けるのか

A. 以前と同じ回収条件なら売掛金がいくらになるかを売上の伸びから計算し、それを超える分を請求ごとに確認します。期日を過ぎた請求と、検収や請求内容の問題で止まっている請求を分けると、原因が見えてきます。

Q. 売掛金の管理は、最初に何から始めればいいですか?

A. 未入金の請求を一覧にして、期日を過ぎているものを金額順に並べることからです。販売管理ソフトの請求一覧と通帳があれば、その日のうちに作れます。期日超過の上位10件に理由と次回連絡日を書き込めば、年齢表の原型になります。

Q. 回収条件の長い大口の受注は、受けるべきですか?

A. 限界利益と、その間に寝る資金の両方で判断します。月3,000万円の受注が翌々月末払いなら、9,000万円が常に入金前の状態になります。その資金を借入で賄う金利と受注の限界利益を比べ、前受金や一部前払いを交渉したうえで決めます。

Q. 期日を過ぎた売掛金があると、銀行の評価は下がりますか?

A. 理由と回収の見通しを説明できれば、少額の延滞で評価が大きく下がることはあまりありません。問題は、長く滞留した売掛金を放置していたり、その存在を説明しなかったりすることです。銀行は回収できない売掛金を資産から差し引いて実態を見るので、自社で先に把握しておくことが大切です。

手元資金チェック

売掛金の増加は、成長の結果でしょうか、回収の遅れでしょうか。得意先別の期日と入金予定から、資金への影響と優先して対応する先を整理します。

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