社長の疑問
「設備代を払える現金はある。金利を払ってまで借りる必要があるのだろうか」
「借りるなら、いくら借りて何年で返すのが正しいのか」
社長が知りたいのは利息の損得ではなく、この投資を払った後も仕入・給与・納税・返済を無理なく続けられるか、続けられないならいくら借りるべきか、です。
同じ「現金か借入か」でも、投資を除いた12ヶ月で残高が最も薄くなる月の金額、会社として残したい最低額、既存借入の年間返済、支払日と借入実行日の順序で答えは変わります。この記事では現金・一部借入・全額借入の3案を同じ資金繰り表で比べます。
結論:支払後の最低残高と、借りた場合の返済後残高を比べる
現金で払うか借りるかは、投資後12ヶ月の最低残高が自社の最低ラインを割らないか、既存と合わせた年間元本が「税引後利益+減価償却費」に収まるか、の2つで決めます。本文の架空例(現預金1億円、投資6,000万円、最低ライン3,000万円)では、全額現金だけが最低残高1,000万円でラインを割り、一部借入と全額借入はどちらも成り立ちます。「払えるか」ではなく、投資後も仕入・給与・納税を無理なく続けられるかを比べます。
結論を左右するのは、自社の最低ライン、既存借入の年間元本、返済期間(設備の寿命より短いと返済が先行する)、支払日より前に借入が実行されるか、売上が計画を下回ったときの余裕です。
だから、口座残高で決めるのをやめ、3案を同じ資金繰り表に置くことから始めてください。設備資金の融資は支払い前に申し込むのが原則なので、比較は発注前に終えます。
なぜ、利益が出る設備でも資金不足になるのか
設備代は先に支払い、効果は数年かけて回収します。設置工事や試運転が必要なら、売上が立つまでにもお金が出ます。受注が増える設備では、材料在庫や売掛金も増えるかもしれません。
現金払いで設備代だけを確保しても、稼働後の運転資金が足りなければ困ります。一方、借入期間が短すぎれば、設備が生む現金より返済が先行します。
具体例:6,000万円の投資を比較する
以下は架空の単純化した試算です。現在の現預金は1億円。投資を除いた12ヶ月予測では、季節的な支出が重なる月に残高が7,000万円になります。会社として残したい最低額は3,000万円と仮定します。
全額を現金で支払うと、支払いが先にあれば最低残高は概算1,000万円で、設定した最低額を割ります。4,000万円を借りて2,000万円を現金で払えば、返済前の概算最低残高は5,000万円で、ここから元利返済を反映します。4,000万円を5年で元金均等返済するなら年間元本は800万円です。利息も含め、実際の返済開始日から月別に計算します。
3パターンを「12ヶ月の最低残高」と「返済負担」で並べる
同じ会社で、全額借入も加えた3パターンを比べます。前提は、投資の翌月から返済が始まり、資金が最も薄くなる月が投資の12ヶ月後に来ること、設備の効果はまだ12ヶ月予測に入れないこと、です。利息は金利条件で変わるので除き、元本だけで比べています。
| 方法 | 借入額・期間 | 年間の元本返済 | 12ヶ月後の最低残高 |
|---|---|---|---|
| 全額を現金 | なし | 0円 | 1,000万円(2,000万円不足) |
| 全額を借入 | 6,000万円・7年 | 約857万円 | 約6,100万円(約3,100万円の余裕) |
| 4,000万円借入+現金2,000万円 | 4,000万円・5年 | 800万円 | 4,200万円(1,200万円の余裕) |
最低残高は、投資前の予測7,000万円から現金払い分と年間元本を引いた額です(元金均等)。
返済負担は、既存の借入と合わせて見ます。この会社の既存借入の年間元本返済を1,200万円、返済に回せるお金(税引後利益+減価償却費)を年3,000万円とすると、全額借入なら合計約2,057万円、一部借入なら2,000万円で、どちらも3,000万円の中に収まります。設備が生む現金(例:年1,500万円)が乗れば、さらに余裕が出ます。
この例では、全額現金だけが最低ラインを割り、一部借入と全額借入はどちらも成り立ちます。あとは「利息を払っても現金を厚く持つか」「利息を減らして余裕を1,200万円にとどめるか」の選択です。売上が計画を下回る不安が強いなら全額借入、受注が安定していて既存借入が軽いなら一部借入、という判断になります。
自社で計算する手順
- 投資を除いた12ヶ月の資金繰り表を作り、最も残高が薄くなる月と金額を出します(13週表があれば、それを12ヶ月に延ばします)。
- 見積書から、設備本体・工事・搬入・教育・予備部品・追加在庫まで含めた総支出と、支払日を書き出します。
- 借入案ごとに、借入額、返済期間、元金均等か元利均等かを置き、返済予定表(銀行に試算を頼めます)から毎月の元本と利息を資金繰り表に入れます。
- 各案の最低残高を、自社の最低ラインと比べます。最低ラインは「給与1ヶ月分+仕入決済1ヶ月分+納税」など、自社の支払予定から決めます。
- 既存借入の返済予定表と合わせた年間元本を、直近決算の「税引後利益+減価償却費」と比べます。
数字の出どころは、現預金と支払予定が資金繰り表、既存借入の返済が返済予定表、税引後利益と減価償却費が直近決算の損益計算書です。最低残高を割らない、返済が返済に回せるお金の中に収まる、の2つを同時に満たす案を選びます。この目安は業種と季節性で変わるので、月商の何ヶ月分という一律の数字は使いません。
自社で見るポイント
- 設備本体だけでなく工事・教育・初期不良・追加在庫まで含めた支出。
- 代金支払日と借入実行日、返済開始日の順序。
- 既存借入と新規借入を合計した毎月の返済額。
- 売上が計画を下回った場合の最低現預金残高。
- 金利、手数料、保証料、繰上返済条件などの総負担。
投資前のチェックリスト
- □ 工事・教育・追加在庫まで含めた総支出と支払日を1枚にした(見積書)
- □ 現金・一部借入・全額借入の3案の最低残高を出した(12ヶ月資金繰り表)
- □ 選ぶ案が自社の最低ラインを割る月がない(資金繰り表)
- □ 既存と合わせた年間元本が税引後利益+減価償却費より小さい(返済予定表)
- □ 借入の実行日が設備代の支払日より前になっている(銀行の日程)
設備資金は「支払い前」に申し込む
設備資金の融資は、見積書と投資計画を出して申し込み、審査、契約を経て実行されます。申込から実行まで1〜2ヶ月は見ておき、発注の前に銀行に話を通して支払日から逆算して申し込みます。先に現金で払った後で「あの分を借りたい」と頼んでも、設備資金ではなく運転資金の扱いになり、返済期間が短くなったり審査の見方が変わったりします。着手金など先に払う分がある場合は、その資金も含めて申込前に相談してください。
よくある間違い
「借金が嫌だから全額現金」「借りられるから全額借入」と先に結論を決めることです。また、融資承認を投資採算のお墨付きと考えるのも危険です。設備を小さく始める、導入を分ける、外注を続ける案も比較できます。
もう一つは、返済期間を設備の寿命より短くすることです。10年使う機械を3年で返すと、設備が生む現金より返済が先に来ます。返済期間は耐用年数と回収期間に合わせて銀行に相談してください。最低ラインを割る案しか残らないなら、投資額を減らす、時期をずらす、返済期間を延ばすのどれかです。既存借入が重いなら、返済期間の長い借入への借換えを相談する手もあります。これはリスケ(返済条件の変更)とは別物で、リスケは以後の新規融資が受けにくくなります。
銀行に聞かれること
設備資金の相談で銀行が確認するのは、投資の中身、効果、返済原資、支払いの段取りの4つです。
| 聞かれること | 答え方 |
|---|---|
| 何に、いくら使うか | 「本体5,000万円+工事1,000万円。見積書を持参」 |
| 売上や利益はどう変わるか | 「外注費が年1,200万円減り、返済原資は1,500万円増」 |
| 返済原資は何か | 「年3,000万円。既存と合わせても2,100万円弱」 |
| 計画どおり受注が増えなかったら | 「効果が半年遅れても最低残高3,000万円を割らない試算」 |
このほか、自己資金をいくら入れるか、支払日と実行日の順序も聞かれます。自己資金は銀行の見方に影響しますが、入れすぎて手元が薄くなるのは本末転倒です。「一部を現金で払う案と全額借入の案の両方を持っています」と伝えると、銀行側からも条件の提案が出やすくなります。
面談前に用意する資料
- 設備の見積書(本体・工事・付帯費用の内訳)と支払条件
- 投資効果の計算(外注費の削減、増える売上と粗利、回収年数)
- 投資後12ヶ月の資金繰り表(3案と、効果が遅れる悲観ケース)
- 直近3期分の決算書と試算表、既存借入の返済予定表
次にやること
現金払い、一部借入、導入延期の三案を同じ資金繰り表に置いてください。最低残高、年間返済、総支払額を並べ、手元資金と将来負担の両方に無理のない案を選びます。
借入を使う案が残るなら、発注の前に銀行へ見積書と資金繰り表を持って相談し、支払日から逆算して申込日を決めてください。

よくある質問
Q. 設備代を払える現金はある。金利を払ってまで借りる必要があるのだろうか
A. 払えるかどうかではなく、支払い後の最低資金残高で判断します。現金払い・一部借入・導入延期の三案を資金繰り表に置き、会社として残したい最低額を割らないか、既存借入と合わせた返済が無理なく続くかを比べましょう。
Q. 設備投資を現金で払うか借入にするか、何から判断すればいいですか?
A. 設備投資を現金で行うか借入で行うかは、現在の口座残高だけでは決められません。現金払いなら利息を抑えられますが、支払い直後の余裕が減ります。借入なら現金を残せますが、将来の返済と利息が増えます。
Q. 補助金が採択されたので、借入は要らないのでは?
A. 補助金の多くは、設備代を払って事業報告をした後に受け取る後払いです。支払いから入金までの間は自社の資金で立て替えるため、その期間の資金繰り表を作り、必要ならつなぎの借入を支払い前に申し込みます。補助金の対象経費や入金時期は制度ごとに違うので、申請支援を受けた専門家か税理士に確認してください。
Q. 現金で払ってしまった後で、やはり借りたいと思ったら遅いですか?
A. 借りられないとは限りませんが、設備資金としては扱われにくく、運転資金として短い期間になることがあります。同じ条件で借り直せる前提は持たないでください。次の投資からは、支払い前に相談する順番にします。
投資判断チェック
現金で払うか、借入で手元資金を残すか。設備代、返済、納税、運転資金を並べ、御社に合う支払い方と投資後の資金余裕を確認します。
