社長の疑問

「銀行から短期と長期のどちらにするか聞かれた。金利の安い方を選んでよいのだろうか」
「毎年更新している短期借入があるが、更新されなかったらどうなるのか」
「設備を長期で借りるとして、何年で返すのが正しいのか」

社長が本当に知りたいのは、金利の差ではなく、今回の借入を期日に無理なく返せるか、更新に頼る借入が資金繰りの不安要素になっていないかです。

同じ「短期か長期か」でも、答えは資金の中身で変わります。

  • 季節仕入や大口案件のように、特定の入金で戻る資金か
  • 売掛金+在庫−買掛金で常に必要な経常運転資金か
  • 設備のように、数年かけて現金を生む資金か
  • 会社全体の年間元本返済が、税引後利益+減価償却費に収まっているか

結論:借りたお金が戻る時期に、返済時期を合わせる

季節仕入のように数ヶ月後の入金で戻る資金は期日を入金日に合わせた短期借入、設備資金は効果が続く期間に収まる長期借入、常時必要な経常運転資金は長期借入か短期継続融資、と分けるのが原則です。借りたお金がいつ、何で現金に戻るかを先に決め、その時期に返済を合わせます。 金利は最後に比べる項目です。

使い分けを左右するのは、資金が戻る時期とその確かさ(販売が計画の7〜8割でも返せるか)、会社全体の年間元本返済額と「税引後利益+減価償却費」の差、短期継続が更新されなかった場合に手元現金で払えるか、です。

だから、借入明細を「季節・案件で戻る資金」「常時必要な資金」「設備等」に分けることから始めてください。設備を短期で借りている契約が見つかれば、それが最初に相談する1本です。

なぜ、短期なら安くて得とは限らないのか

短期借入は本来、売上代金の回収で返すお金です。回収の当てがない資金を短期で借りると、金利が低くても、期日のたびに「更新してもらえるか」が資金繰りの不安要素になります。

逆に、長期借入には毎月の返済があります。事業に必要な資金が減らないのに返済だけが進むと、手元資金が薄くなり、再び借入が必要になります。

具体例:三つの資金を分けて設計する

架空の卸売会社(月商5,000万円、仕入原価率70%)が、合計1億円を必要としています。

必要資金 金額 回収・必要期間 検討する調達
年末商戦の追加仕入れ 2,000万円 販売代金が4ヶ月後に入金 回収日に合う短期資金
配送設備 5,000万円 数年かけて効果を得る 効果と返済に合う長期資金
通常取引の立替分 3,000万円 取引継続中は常時必要 長期資金や継続的な短期枠等を比較

三つの資金を、数字で追ってみます。

季節資金:10月に仕入れ、2月に戻る2,000万円

年末商戦向けに10月に2,000万円を追加で仕入れ、11〜12月に販売し、代金は翌年2月末に入金されます。この資金は2月末に現金で戻るので、期日を2月末にした手形貸付(期日に一括で返す短期借入)が合います。金額の根拠は、追加仕入の発注書と、過去の年末商戦の販売実績です。

注意点は、売れ残ったときです。500万円分が売れ残れば、2月末に戻るのは1,500万円で、差額500万円は手元現金から返すか、更新を相談することになります。短期で借りるときは「販売が計画の7〜8割でも期日に返せるか」を先に確かめます。

設備資金:5,000万円を何年で返すか

配送設備を自社で持つと、外注していた配送費が年1,200万円減る見込みです。減価償却費を費用に入れ、法人税等を差し引いた後(税率は会社によって違うので税理士に確認)に減価償却費を足し戻した「返済に回せるお金」は、この設備単体で年およそ1,000万円です。

返済期間5年なら年間元本返済は1,000万円で余裕はほぼゼロ、7年なら約714万円で約286万円の余裕、10年なら500万円で約500万円の余裕です。5年では、設備の効果が計画を少し下回っただけで返済が利益を上回ります。7年なら余裕があり、設備の効果が続く期間(耐用年数の目安)にも収まります。10年は設備の寿命を超えて返済が残る可能性と、総利息の増加を確かめます。設備資金は、支払いの前に申し込むのが原則です。

経常運転資金:常に必要な3,000万円

通常取引の売掛金は回収されても、次の販売分が発生します。個々の代金が戻ることと、会社全体の必要資金が減ることは別です。この会社の試算表では、売掛金6,000万円(回収まで平均1.2ヶ月)、在庫2,000万円、買掛金5,000万円です。必要運転資金は、売掛金+在庫−買掛金=3,000万円。取引が続く限り、この3,000万円は減りません。

このように常時必要な運転資金は「経常運転資金」と呼ばれます。長期借入で賄うほか、手形貸付や当座貸越を期日ごとに更新する「短期継続融資」で支える方法もあります。短期で支えられるのは必要運転資金の範囲が目安で、それを超える分は赤字の穴埋めとみられやすくなります。

短期継続融資の「更新されないリスク」をどう見るか

短期継続融資は、期日に元本を返さず更新を繰り返す前提の借入ですが、更新は自動ではありません。銀行は更新のたびに、直近の試算表で必要運転資金が借入額を下回っていないか、業績が落ちていないか、資金が赤字補填に回っていないかを見ます。

先の会社で業績が悪化して更新が見送られると、3,000万円を期日に一括返済することになります。手元現金が4,000万円の会社なら残りは1,000万円で、翌月の支払いに足りません。

備えは、更新の3ヶ月前に試算表を添えて銀行に状況を伝えること、経常運転資金の一部を長期借入に切り替えて一括返済の額を減らすこと、短期継続を一行に集めず期日をずらすこと、更新なしの場合に足りなくなる額を資金繰り表で把握しておくことです。更新が見送られそうなときに相談するのは「長期への借換え」で、返済条件を変えるリスケとは別物です。

長期借入の返済期間はこう決める

返済期間の決め方は三つの条件で考えます。

  1. 効果が続く期間・耐用年数の範囲内にする。 設備が動かなくなっても返済だけ残る形を避けます。
  2. 会社全体で、年間元本返済額が「税引後利益+減価償却費」を下回るようにする。 個々の借入で余裕があっても、既存の長期借入と合わせて超えていれば負担が重すぎます。
  3. 据置期間は、設備が稼働して現金を生むまでに合わせる。 据置は元本の返済を後ろへ送るもので、元本がなくなるわけではありません。据置期間中も利息の支払いは通常続きます。

自社で計算するには、返済予定表から既存の長期借入の今後12ヶ月の元本返済額を合計し(短期借入は売上代金で返すので含めません)、直近決算の税引後利益と減価償却費の合計と比べます。新しい借入の年間返済額を加えても前者が後者を下回っていれば、その期間で無理はありません。

自社で見るポイント

借入ごとに、使途、支払日、入金予定、返済日を並べます。設備なら安定稼働前に返済が始まっても払えるか、季節仕入れなら販売が遅れても期日に返せるかを確認し、金利だけでなく手数料、保証料、担保、据置後の返済額も比較します。

借入の期間設計チェックリスト

  • □ 借入ごとに「何で・いつ現金に戻るか」を言える(借入明細)
  • □ 短期借入の残高が必要運転資金+季節資金を超えていない(試算表)
  • □ 設備資金を短期借入や当座貸越で払っていない(借入明細)
  • □ 長期の年間元本返済が税引後利益+減価償却費より小さい(返済予定表)
  • □ 短期継続の更新なしの場合の必要額を資金繰り表に入れている(資金繰り表)

引っかかった項目があれば、次の「よくある間違い」の該当箇所を読んでください。

よくある間違い

設備代を短期借入で払い、「来年も更新できるだろう」と考えることです。設備は数年かけて現金を生むので、1年後の期日に戻る当てがありません。これは、資金繰り表を添えて長期への借換えを銀行に相談します。また、常時必要な運転資金を返済期間の短い分割返済型の借入で賄い、返済が進むたびに追加借入を繰り返す設計も点検が必要です。経常運転資金は減らないお金なので、返済期間の長い借入か、短期継続融資に組み替える方が実態に合います。

借入期間は長ければ必ずよいわけでもなく、総利息や契約条件まで含めて会社に合う期間を選びます。

銀行に聞かれることと答え方

短期か長期かを銀行が聞くとき、本当に知りたいのは「何で返すか」です。

聞かれること 答え方
この資金は何で返しますか 「年末商戦の仕入2,000万円で、代金は2月末入金です。期日2月末の手形貸付で」
短期と長期、どちらをご希望ですか 「設備5,000万円は年間効果が約1,000万円なので7年の長期で。5年では余裕がありません」
必要運転資金はいくらですか 「売掛金6,000万円、在庫2,000万円、買掛金5,000万円で3,000万円です」
据置は必要ですか 「稼働まで3ヶ月かかるので据置6ヶ月で。据置中の利息は資金繰り表に入れています」

面談前に用意する資料

  • 直近3期分の決算書と直近の試算表(売掛金・在庫・買掛金が分かるもの)
  • 借入明細と返済予定表(借入ごとの使途・期日・更新時期つき)
  • 向こう12ヶ月の資金繰り表(更新なしの場合の版も)
  • 設備なら見積と年間の現金増の計算、季節資金なら発注書と過去の販売実績

次にやること

既存借入を「季節・案件で戻る資金」「常時必要な資金」「設備等」に分類してください。回収時期と返済時期が合わない契約を見つけたら、資金繰り表を添えて銀行へ相談します。更新を前提とする分は、更新なしの場合の必要額も把握しておきます。

分類は借入明細に3つの印を付けるだけで始められます。設備を短期で借りている、経常運転資金を短い分割返済で借りている、という契約が見つかれば、それが最初に相談する1本です。

短期借入と長期借入はどう使い分ける?お金が戻る時期から考える

よくある質問

Q. 銀行から短期と長期のどちらにするか聞かれた。金利の安い方を選んでよいのか

A. 金利だけで選ばず、借りたお金が現金で戻る時期に返済時期を合わせます。季節仕入れのように特定の入金で返せる資金は短期、設備資金は長期が基本です。常に必要な運転資金は、長期借入か、更新を前提とした短期借入かを比べます。短期を選ぶ場合は、更新されなかったときの資金手当ても確認します。

Q. 短期と長期を使い分けるとき、最初に決めることは?

A. 借入ごとの使途と、その資金がいつ・何で戻るかです。「季節・案件で戻る資金」「常時必要な資金」「設備等」に分けると、合う期間と返済方法が見えてきます。

Q. 短期継続融資の更新を断られそうです。どうすればよいですか?

A. 期日の前に、試算表と資金繰り表を持って「長期の分割返済への借換え」を相談してください。一括返済ではなく数年かけて返す形にすれば、資金繰りの山は小さくなります。これは返済条件を変えるリスケとは別で、以後の融資に響きにくい方法です。他行にも同じ資料で相談し、一行の判断に依存しない形をつくります。

Q. 据置期間はどのくらい取ればよいですか?

A. 設備が稼働して現金を生み始めるまでの期間に合わせます。稼働まで3ヶ月なら、稼働後の立ち上がりも見て6ヶ月程度から相談するのが一例です。据置が長いほど据置後の毎月返済額は大きくなり、据置中も利息は払うので、その両方を資金繰り表に入れて決めてください。

借入余力チェック

資金が戻る前に返済が来ていませんか。借入の使途と回収時期を照合し、御社に合う期間、返済方法、更新時に備えるべき額を整理します。

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