社長の疑問
「銀行は一行にまとめた方が大事にしてもらえるのだろうか。それとも複数と付き合う方が安心なのか」
「メインから『うちで全部できますよ』と言われた。他行を増やすと関係が悪くなるのか」
「経理が一人しかいない。何行まで手が回るのか」
社長が本当に知りたいのは、行数の正解ではなく、メインの方針が変わったときや大きな設備投資のときに資金繰りが止まらない体制かどうかです。
同じ「何行と付き合うか」でも、答えは次の条件で変わります。
- 借入総額と、次の資金需要(設備・季節・経常運転資金)の大きさ
- メインのほかに、決算説明をして会社を知っている銀行があるか
- 返済・更新の期日が同じ月に集中していないか
- 社長と経理が資料提出と面談に割ける時間
この記事では、行数ではなく役割で考える整理の仕方を示します。
結論:行数より、必要な役割と一行に依存しすぎない体制を決める
年商6億円程度なら2〜3行、年商24億円程度なら3〜4行と公的金融機関が現実的な範囲です。ただし行数は目的ではなく、決済・給与、経常運転資金、設備資金、季節・案件資金、公的金融機関という5つの役割が埋まり、どの一行の方針が変わっても資金繰りが止まらない状態をつくった結果です。
行数を左右するのは、借入総額が一行の枠で足りるか、メインと同じ資料を見ている銀行がもう1行あるか、期日の集中を手元現金で耐えられるか、各行に説明を続けられる経理の余力があるか、です。
だから最初にやるのは、銀行を増やすことでも減らすことでもなく、銀行別に残高・使途・担保・期日・直近面談を一枚に並べ、空いている役割と、同じ月に集まっている期日を探すことです。
なぜ、口座を増やすだけでは安心につながらないのか
口座があるだけの銀行が、急な資金不足で直ちに貸してくれるとは限りません。銀行から見ると、出せる金額と速さは「会社を知っている度合い」で決まります。決算書を3期分見て、社長と面談し、入出金の流れを口座で見ている銀行ほど、急な相談にも対応しやすくなります。
一方、取引銀行を増やしすぎると資料提出と面談に時間がかかり、各行との関係が薄くなります。経理が1〜2人の会社で5行以上と付き合うと、どの銀行にも深く説明できない状態になりがちです。
銀行に担ってもらう役割は5つある
行数を考える前に、役割を並べます。1つの銀行が複数の役割を兼ねることもあります。
- 決済・給与(メイン):入出金と給与振込の中心。資金の流れを見ているので事業を最も深く理解し、困ったときに最初に相談できる。
- 経常運転資金:売掛金+在庫−買掛金で常に必要な資金。短期継続融資の更新か、長期での安定調達。
- 設備資金:工場、機械、車両、店舗など。投資の効果を理解し、耐用年数に合う期間で貸す。
- 季節・案件資金:年末商戦の仕入、大口案件の立替。ピーク前に短期で貸し、回収で返す。
- 公的金融機関:民間銀行を補う長期・固定金利の資金。民間が慎重になる局面でも相談できる窓口。
具体例:三行との役割を点検する
架空の年商15億円の会社が、A銀行から1.5億円、B銀行から1億円、C銀行から5,000万円を借りているとします。
| 銀行 | 役割・残高 | 種類・期日 | 直近の面談 |
|---|---|---|---|
| A銀行 | 決済、給与、運転資金 1.5億円 | 短期継続、毎年3月更新 | 先月(決算説明) |
| B銀行 | 設備投資 1億円 | 長期、毎月返済、工場に担保 | 1年前 |
| C銀行 | 季節資金 5,000万円 | 短期、3月期日、保証付き | 前回の実行時 |
大切なのは三行あることより、返済や更新の期日が同じ月に集中していないかです。この会社では、A銀行の更新1.5億円とC銀行の期日5,000万円がどちらも3月で、借入合計3億円のうち2億円の山が一つの月に重なっています。また、B銀行と1年も会っていないなら、A銀行の代わりをすぐ果たすとは限らず、設備の次の相談は事実上ゼロからです。
期日の集中をほぐすなら、例えばA銀行の短期継続のうち5,000万円を長期(毎月返済)に切り替え、C銀行の期日を年末商戦の代金回収に合わせて2月に動かします。3月に集中する期日は2億円から1億円に減り、更新されなかった場合に備える金額も半分になります。こうした変更は、期日の直前ではなく更新の3ヶ月前に「今回から一部を長期にしたい」と相談して進めます。
規模別に見た現実的な行数と構成
業種や地域、社長と経理の手が回る範囲で変わる前提で、目安を示します。
月商5,000万円(年商6億円)程度なら2〜3行が現実的です。メイン1行(地方銀行または信用金庫)に決済と運転資金を集め、設備や季節資金でサブ1行に実績をつくり、必要に応じて公的金融機関を加えます。メインの方針が変わったときに、サブが会社を知っている状態を保つのが狙いです。
月商2億円(年商24億円)程度になると、借入総額が大きく一行の枠だけでは設備投資に足りないので、メイン、準メイン(メインと同規模か都市銀行)、信用金庫または第二地銀、公的金融機関の3〜4行と公的金融機関になります。メインと準メインで金額を分け、期日も分けます。
どちらの規模でも、「決済と主力の運転資金を担うメインが1行あり、そのメインと同じ資料を見ている銀行がもう1行ある」ことが最低限の形です。逆に、借入がほとんどない会社が3行も4行も持つ必要はありません。
自社で見るポイント
各行について、借入残高、取引年数、主要な使途、担保・保証、返済期日、直近の面談時期を一枚に並べます。残高の偏りと、役割の偏りの両方を確認します。数字は借入明細と金銭消費貸借契約書(借入の契約書)、面談時期は社長と経理の記録から拾います。
新しい銀行を増やすなら、資金が尽きる直前ではなく、決算説明や将来投資の相談から始めます。新規口座開設や融資実行には各行の判断があり、希望どおり進むとは限りません。
銀行取引のチェックリスト
- □ 銀行別に残高・使途・担保・期日・直近面談を一枚に(借入明細)
- □ 一行への残高の偏りに理由を言える(借入明細)
- □ 同じ月の更新・返済期日が手元現金で耐えられる(返済予定表)
- □ メイン以外に1年以内に決算説明をした銀行がある(面談記録)
- □ 全行に同じ数字の資金調達方針を渡している(調達計画)
残高の偏りの目安は業種や借入総額で変わるので、割合そのものより「偏っている理由を説明できるか」で見てください。
複数行に同じ資料で説明する方法
複数行と付き合うときに一番避けたいのは、銀行ごとに違う数字を出すことです。決算書は各行とも同じものを見ているので、各行に伝えた必要額を足すと決算書の資金需要と合わない、といったずれは信頼を落とします。
そこで、次の1枚を「資金調達方針」として全行共通で用意します。
- 今期の資金需要の全体額と内訳(経常運転資金、設備、季節資金)
- 現在の借入一覧(銀行別の残高・期日・担保)
- 各行にお願いしたい役割と金額
- 返済に回せるお金(税引後利益+減価償却費)と、全行合計の年間返済額
各行にはこの同じ資料を渡したうえで、「御行には設備資金のうち5,000万円をお願いしたい」と、その銀行の役割だけを個別に伝えます。「他行にはいくら頼んでいるか」を聞かれたら隠さず答えます。全体像を見せることで、銀行は自行の枠を判断しやすくなり、社長は会社全体の返済負担を見失いません。
よくある間違い
「五行あれば、一行が断っても残りが貸してくれる」と考えることです。景気や会社業績が悪化すると、複数行が同時に慎重になる場合があります。行数を増やすだけでなく、資金余裕と返済計画を整えます。
また、給与振込や主力の入金口座を黙って他行へ移すと、メインは「資金の流れが見えなくなった」と受け取ります。役割を変えるなら、理由と全体の方針を先に伝えてください。金利の安さだけで乗り換えるのも避け、新しい銀行は既存行を切る相手ではなく、役割の空白を埋める相手として増やします。
新しい銀行や既存行に聞かれることと答え方
新規行との初回面談でも、メインからの質問でも、答え方の芯は同じです。
| 聞かれること | 答え方 |
|---|---|
| 新規行「なぜ当行と取引したいのですか」 | 「来期の設備投資に備えて、設備資金を相談できる銀行を増やしたいためです」 |
| 新規行「借入は全部でいくらですか」 | 「3行合計で3億円です。銀行別の残高と期日はこの一覧のとおりです」 |
| メイン「他行から借りるのですか」 | 「はい。設備投資が大きいので分けたいためで、運転資金は引き続き御行にお願いします」 |
| メイン「うちで全部できますよ」 | 「ありがたいです。ただ一行に集中すると御行にもご負担なので、分けて進めたいです」 |
面談前に用意する資料
- 直近3期分の決算書と直近の試算表
- 銀行別の借入一覧(残高・使途・担保・保証・期日・直近面談)
- 全行共通の資金調達方針(1枚)
- 向こう12ヶ月の資金繰り表(更新・返済期日を月別に記入)
次にやること
取引銀行の一覧を作り、「主担当」「設備」「季節資金」などの役割を書いてください。空白があれば、その役割を既存行へ相談するか、新しい関係をつくるかを判断します。目標は銀行の数ではなく、必要なときに具体的な相談ができる体制です。
一覧ができたら、同じ月に集まっている期日を探し、更新の3ヶ月前に分散の相談を入れる日程を決めてください。それが、行数を変えなくてもすぐにできる一手です。

よくある質問
Q. 銀行は一行にまとめた方が大事にしてもらえるのか。それとも多く付き合う方が安心なのか
A. 一行にまとめるか多くするかより、決済・運転資金・設備・季節資金などの役割ごとに相談できる銀行があるかで考えます。一行だけに頼ると、その銀行の方針が変わったときに代わりがありません。逆に、口座があるだけの銀行を増やしても、急な資金不足のときに頼れるとは限りません。
Q. 取引銀行の数を見直すとき、最初にやることは?
A. 各行の借入残高、返済期日、担保・保証、担っている役割を一覧にし、どの役割が一行に偏っているか、空白になっているかを確認します。行数は、その結果として決めます。
Q. メインバンクに黙って他の銀行から借りてもよいですか?
A. 黙って借りることは避けてください。決算書の借入残高で後から分かりますし、「知らないところで借入が増えた」という受け取り方をされると、次の相談に響きます。借りる前に「設備資金を分けて相談したい」と方針を伝えれば、多くの場合は理解されます。
Q. 地方銀行と信用金庫、どちらを増やすべきですか?
A. 会社の規模と資金需要によります。借入総額が大きく設備投資が続く会社は、大きな金額を出せる銀行を準メインに置く必要があります。地域密着で小回りの利く相談相手がほしいなら信用金庫が合うこともあります。どちらも、既存行と役割が重ならず、空白を埋める先を選んでください。
借入余力チェック
銀行の数は増やせば安心とは限りません。各行の借入、期日、取引状況から、御社に必要な役割と資金調達先の偏りを確認します。
