社長の疑問
「決算書に役員貸付金が残っている。このままで大丈夫?」
「利息を払っていれば、銀行や税務署への説明は十分?」
「一度に返せないなら、どう減らせばいい?」
社長が本当に知りたいのは、勘定科目の説明ではなく、残っている役員貸付金を、会社にも自分の生活にも無理のない形でどう扱うかという点です。
判断の軸は残高だけでなく、「発生した理由を説明できるか」「個人に返済原資があるか」「会社がお金を必要とする時期までに元金が戻るか」の3つです。
役員貸付金は決算書では会社の資産に載りますが、返ってくるまでは仕入れや給与の支払いに使えません。この見え方と実態のずれがあるため、回収時期まで確認する必要があります。
結論
端的な答え
役員貸付金とは、会社が社長などの役員個人に貸しているお金のことです。会社にとっては「返してもらう権利」であり資産ですが、現金ではありません。残っているなら、利息の有無を確認するだけで終わらせず、元金を毎月いくらずつ、いつまでに会社へ戻すかまで決めてください。
判断条件
①発生理由を説明できる、②社長個人の預金や手取りから返済原資を出せる、③会社が支払いに困る前に元金が戻る見込みがある。この3つを確認したうえで、会社が回収を待てるなら、分割返済も選択肢になります。逆に、原資が不明、残高が増え続けている、会社の支払いに影響している、のいずれかに当てはまるなら、優先して整理すべきです。
「年商の何%までなら安全」といった一律の線引きは、この記事では使いません。金融機関への説明や税務上の確認では、残高に加えて、貸付けの経緯、利率の根拠、返済の見込みと実際の入金を確認することが重要です。
なぜそうなるのか
役員貸付金と役員借入金は、お金の向きが逆
名前が似ているので混同されやすいのですが、主語を「会社」にすると区別がつきます。会社が役員に貸しているのが役員貸付金、会社が役員から借りているのが役員借入金です。社長が会社の資金繰りを助けるために自分のお金を入れた場合は、役員借入金になります。
| 項目 | 役員貸付金 | 役員借入金 |
|---|---|---|
| 発生時のお金の流れ | 会社 → 役員 | 役員 → 会社 |
| 決算書での位置づけ | 資産(返してもらう権利) | 負債(返す義務) |
| 返済が進むと会社の現金は | 増える | 減る |
| 金融機関への説明 | 発生理由と回収見込みを示したい | 返済条件などを示したい |
決算書では資産でも、支払いには使えない
役員貸付金が1,000万円あっても、会社の預金が1,000万円増えるわけではありません。「返してもらう権利」は、入金されて初めて預金に変わります。仕入先への支払いや給与、納税に充てるには現預金が必要なため、役員貸付金を現預金に足して「手元資金は十分」と考えるのは危険です。
元金を回収する行為は売上ではなく、会社の資産の中身が「権利」から「預金」に戻る動きです。だからこそ、利息と元金は分けて管理する必要があります。
銀行は「会社と個人のお金が分かれているか」を見る
中小企業基盤整備機構のJ-Net21でも、役員貸付金が多いと融資審査で不利な材料になりうると説明されています。発生理由を説明できない、残高が年々増えている、返済の形跡がないという状態では、会社の資金が役員個人に出たまま戻っていない理由を問われる可能性があります。
経営者保証に関するガイドラインのQ&Aでも、法人と経営者の資産・経理を分離することが重視され、事業上の必要が認められない会社から経営者への貸付けを行わないことが例として挙げられています。経営者保証の見直しや今後の資金調達を考えるうえでも、役員貸付金の整理は重要です。
金融機関への説明は「利息を付けています」だけで終わらせず、発生理由、現在残高、返済原資、これまでの返済実績、追加貸付けを防ぐ仕組みを1枚にまとめ、計画と実績を併記すると伝わりやすくなります。
利息は「とりあえず年1%」で決めない
国税庁のタックスアンサーでは、会社が外部から借り入れたお金を役員に貸している場合は、その借入金の利率が利息相当額の基準になります。それ以外の場合は貸し付けた年に応じた利率が示されており、2026年中に貸し付けたものは年1.3%です。会社の平均調達金利など、合理的な利率による場合には別の取扱いもあります。
無利息や低い利率で貸していると、基準となる利息との差額が役員への給与として課税されることがあります。会社側での損金算入も、役員給与に関する取扱いを確認する必要があります。
注意したいのは、「2026年の残高すべてに1.3%を掛ければよい」という話ではない点です。貸付日や資金の出所などによって基準が変わるため、残高の明細をそろえたうえで税理士に確認してください。
契約書だけでなく、会社としての承認も必要
株式会社が取締役にお金を貸す取引は、取締役と会社の利益が対立しうる利益相反取引にあたります。会社法では、重要な事実を開示して株主総会の承認を受けることが定められています。取締役会設置会社では、取締役会の承認を受け、取引後には重要な事実を取締役会に報告する必要があります。
社長一人の会社でも、貸付額、利率、返済期限、返済方法を契約書に残し、必要な承認や記録を整えておくことが、後から取引を説明する土台になります。会社の機関設計や株主構成によって手続きが変わるため、具体的な方法は弁護士や司法書士に確認してください。
数字を使った具体例
前提:1,800万円を、一括返済と毎月返済に分ける
年商12億円の製造業を想定した架空の例です。金額や利率はすべて計算のための仮定で、標準的な返済期間や適正金利を示すものではありません。
- 社長への役員貸付金の残高:1,800万円。
- 社長が生活の備えを残したうえで、個人預金からすぐに返せる金額:600万円。
- 現在の手取り収入から、生活費・個人の納税準備・住宅ローンなどを引いた毎月の余裕:30万円。
- 一括返済後の元金1,200万円は、毎月末に25万円ずつ返済する。
- 利息は仮に年2%とし、毎月の返済前残高に2%÷12を掛けて、元金とは別に支払う。
- 追加の貸付け、返済遅延、過去の未払利息はないものとし、振込手数料は除外する。
計算式と結果:初回の支払いは27万円、12ヶ月後の元金は900万円
まず、毎月30万円の余裕で元金と利息の両方を払えるかを確かめます。
- 一括返済後の元金:1,800万円 − 600万円 = 1,200万円
- 初回の利息:1,200万円 × 2% ÷ 12 = 2万円
- 初回の元利合計:25万円 + 2万円 = 27万円(余裕30万円の範囲内)
- 残りの元金を返し終える期間:1,200万円 ÷ 25万円 = 48ヶ月
- 12ヶ月後の元金残高:1,200万円 − 25万円 × 12 = 900万円
最初の12回の利息は、返済前残高が1,200万円から925万円まで毎月25万円ずつ減っていくので、平均残高を使って求められます。(1,200万円 + 925万円)÷ 2 × 2% = 21.25万円が最初の12回の利息合計です。12回目の支払いは、元金25万円に利息約1.54万円を足した約26.54万円になります。
結果として、最初の12ヶ月で会社に戻るお金は、元金900万円(一括600万円+毎月25万円×12回)と利息21.25万円の合計921.25万円です。当初の元金1,800万円は、回収した900万円と12ヶ月後の残高900万円に分かれます。
開始時の残高
1,800万円
会社が回収すべき元金
12ヶ月の元金回収
900万円
一括600+毎月25×12
12ヶ月後の残高
900万円
残り36ヶ月で返済
利息とは別に、元金を毎月減らす
元金回収900万円とは別に、最初の12回で利息21.25万円(年2%と仮定)を会社が受け取る前提です。
利息だけ払い続けた場合との違い
同じ当初残高1,800万円について、元金を返さず年2%の利息だけを払った場合、会社に入るのは年間36万円(1,800万円 × 2%)で、元金残高は1年後も1,800万円のままです。利息の入金で会社の預金は増えても、貸し付けた元金は戻りません。利息を払っていることと、会社が貸付金を回収できていることは分けて考える必要があります。
社長の判断:自分が返せる計画と、会社が待てる計画を両方確認する
この例では、役員報酬を増やさなくても返済を始められます。ただし、初回支払い後の個人の余裕は3万円しかありません。車検や家族の医療費などの臨時支出を考えると、元金の返済額を無理に引き上げるより、毎月25万円の元金返済を続けられるか確認する方が現実的です。
会社側では、921.25万円が今日まとめて入るわけではない点に注意してください。一括の600万円と毎月の元利返済を、それぞれの入金日に資金繰り表へ書き込み、仕入れ・給与・納税の支払日と並べて確認します。会社に数ヶ月以内の資金不足があるなら、48ヶ月の回収計画だけでは間に合わないため、銀行借入や支払条件の見直しを別途検討する判断になります。
自社で確認するポイント
残高の数字ではなく、根拠資料と回収予定を確認する
- 残高の内訳:総勘定元帳、役員別の明細、通帳を照合したか。仮払金や立替金に、未整理の個人支出が隠れていないか。
- 発生理由:貸付日、金額、使途、受取人を説明できるか。会社経費の未精算分と、純粋な個人への貸付けを分けたか。
- 個人の返済原資:社長個人の預金、手取り収入、生活費、個人の納税や借入返済を把握したか。「将来の報酬増額」だけを原資にしていないか。
- 契約と承認:利率の根拠、返済期限、毎回の返済額を書いた契約書と、必要な株主総会・取締役会の記録があるか。
- 返済の実績:元金と利息が、計画どおりに実際に入金されているか。入金の遅れを毎月把握しているか。
- 会社の支払予定:回収予定日が、仕入れ・給与・納税の支払日に間に合うか。役員貸付金を現預金に足して安心していないか。
- 再発防止:個人のカードと法人カードを分け、立替精算の期限と確認担当者を決めたか。
社長への月次報告は、前月残高 + 新たな貸付け − 元金回収 = 当月残高の1行を中心にしてください。利息の入金を別欄にしておけば、「お金は入っているのに元金残高が減らない」状態をすぐに把握できます。
よくある間違い
「利息を付けているから問題ない」と考える
利息の税務と、元金が戻るかどうかは別の問題です。税務上の利率を確認していても、元金が減らず会社のお金が外に出たままなら、資金繰りや金融機関への説明という課題は残ります。利息だけでなく、元金の回収予定と実績を確認してください。
科目を変えたり、債権を放棄したりすれば消えると考える
役員貸付金を仮払金などに振り替えても、会社に現金は戻りません。また、会社が返済を免除すると、役員が受け取った経済的利益として給与の問題が生じ、会社側でも損金に算入できない場合があります。「帳簿から消す」方法を先に探すのではなく、回収方法と税負担の両方を税理士・弁護士に確認してください。
決算日だけ返して、すぐに借り直す
決算日の残高を一時的に減らしても、翌月に同額が出ていく運用では、継続的に回収しているとは説明しにくくなります。通帳には往復の入出金も残ります。決算日の数字だけでなく、毎月の残高と実際の入出金で管理することが大切です。
役員報酬を増やして返せば解決すると思う
報酬を増やしてそのお金で返済する場合、会社からは報酬としてお金が出ていきます。個人側の税金や社会保険料への影響もあるため、会社と個人を合わせて考えると、想定したほど資金繰りが改善しないことがあります。役員報酬の変更には法人税上の要件もあり、年度の途中で自由に変更できるわけではありません。まずは現在の手取りで返せる額を計算し、報酬の見直しは税理士と検討してください。
次にやること
今日の依頼は「残高と回収予定を1枚にする」
- 経理担当に残高の内訳を出してもらう。役員貸付金と仮払金を、役員別・発生日別に並べ、通帳と照合して残高を確認します。
- 追加の流出を止める。個人支出を会社が払っている取引を洗い出し、会社の立替分は期限を決めて精算します。
- 社長自身が返済可能額を出す。いますぐ一括で戻せる金額と、毎月の元利返済に回せる金額を分けて書き出します。
- 専門家と条件を整える。利率、過去の処理、返済契約、必要な承認手続きを税理士・弁護士に確認します。
- 最初の返済を実行し、毎月照合する。資金繰り表に回収日を反映し、金融機関への説明資料には計画と実績を併記します。
返済原資が本当にない場合は、実行できない計画を作らないことが大切です。個人資産の換金可能性まで含めて専門家と整理し、会社側の資金不足への対応は役員貸付金の回収とは切り分けて進めてください。
よくある質問
Q. 私が会社に貸しているお金も、役員貸付金ですか?
A. いいえ。社長が会社にお金を入れた場合、会社の帳簿では「役員借入金」として負債に載ります。役員貸付金は会社から役員へ貸したお金で、貸し手と借り手が逆です。
Q. 役員貸付金があると、銀行融資は必ず断られますか?
A. 残高があるだけで一律に断られるとは言えません。ただし、不利な材料になる可能性はあるため、発生理由と回収計画を説明できるようにしておくことが大切です。面談に備え、返済予定表に加えて、実際の入金を示せる記録も整理してください。
Q. 一度に返せない場合、毎月少しずつでもよいですか?
A. 分割返済は選択肢になります。個人が利息込みで無理なく払える額と、会社が待てる回収期間をすり合わせ、契約書に返済額と期限を明記してください。すでに返済期限が過ぎている場合は、放置せず契約の見直しを相談してください。
Q. 無利息にすると、必ず税金がかかりますか?
A. 必ずではありません。災害や病気で臨時に多額の生活資金が必要になった場合に、合理的な金額・期間で貸し付けるときなど、給与として課税しなくてもよいケースが国税庁の案内で示されています。ただし条件を満たすかの確認が必要なので、無利息を選ぶ前に貸付目的・金額・期間を税理士に伝えて判断してください。
手元資金チェック
役員貸付金がいつ会社に戻るのか、そしてその間の仕入れ・給与・納税を手元の預金で払い切れるか、数字で確認できていますか。
自社の残高と社長個人の返済可能額をもとに、回収計画と会社の資金繰りを整理できます。まず確認すべき数字から、無料相談でお話しください。
