社長の疑問
「試算表では黒字なのに、なぜ通帳の残高は毎月減るのか?」
「資金繰り表には何を書き、どの数字を見ればよいのか?」
「資金が足りなくなる前に、いつまでに何を決めればよいのか?」
社長が知りたいのは、資金繰り表の作り方だけではありません。
自社のお金がいつ足りなくなり、いつまでに何を決めるべきか、そこが判断ポイントです。
試算表が黒字でも、売掛金の入金前に仕入・給与・税金・借入返済が重なれば、手元資金は減ります。資金繰り表では、残高が最も少なくなる時期と金額を先に確認します。
結論
端的な答え
資金繰り表は、将来の「入金」「支払い」「残高」を月ごと(必要なら週ごと・日ごと)に並べた予定表です。利益を見る表ではなく、お金が足りるかどうかを事前に知るための表です。
社長が見る3つの数字
①残高が最も少なくなる時期とその金額、②自社で決めた「最低必要資金」との差額、③差額を埋める対策の期限。この3つが分かれば、残高がプラスでも備えが薄い月を見つけて、先に手を打てます。
作り方の基本は1本の式だけです。月初残高+当月の入金−当月の支出=月末残高。月末残高を翌月の月初残高に引き継げば、何ヶ月先でもつながります。細かい様式より、入金と支出の時期を実際の日付どおりに置くことが重要です。
運用は、少なくとも月次で3〜6ヶ月先、必要に応じて6〜12ヶ月先まで見渡し、直近は週次、残高が薄い期間は日次で確認する組み合わせを本記事では提案します。一定規模の会社では、社長が入出金をすべて把握するのではなく、経理・営業・購買の情報を1枚に集め、社長は3つの数字だけを見て判断する形を目指してください。
なぜそうなるのか
利益とお金は、動く日が違う
売上は商品を納めた月に計上されますが、得意先からの入金は翌月末や翌々月ということが珍しくありません。一方で、仕入代金や給与、外注費は売上より先に支払います。売上が伸びるほど先に出ていくお金が増えるため、「黒字なのに預金が減る」という状態は普通に起こります。
借入金の元金返済も同じです。返済はお金が出ていきますが、損益計算書の費用にはなりません。逆に、減価償却費は数年前に買った設備の代金を分割して費用にしているだけで、計上するたびにお金を払っているわけではありません。
つまり、利益は「試算表」で、支払いに使えるお金は「資金繰り表」で見るのが役割分担です。試算表だけ見ていると、納税や返済が重なる月の不足に気づくのが遅れます。
作り方は「残高・入金・支出」の順で埋める
月末残高=月初残高+当月の入金合計−当月の支出合計
- 月初残高を実際の口座残高に合わせる。対象にする現金・預金の範囲を決め、通帳どおりの数字を入れます。担保に入っている定期預金など、自由に使えないお金は別に管理します。
- 入金を「回収する月」に入れる。売上を計上する月ではなく、実際にお金が入る月に書きます。大口の売掛金は得意先ごとに回収条件を確認します。
- 支出を「支払う月」に入れる。仕入・給与・経費に加え、法人税や消費税の納付、設備代金、借入の元金返済を、それぞれの支払月に置きます。
- 月末残高を翌月初へつなぐ。過ぎた月は実績に置き換え、先の月は予定として色や欄を分けておきます。
様式に唯一の正解はありません。参考になる記入例もありますが、最初から細かく作り込む必要はなく、入出金の漏れと二重計上を防げる粒度から始めてください。
借入を入れる前の表で、本当の不足を見る
資金繰り表は、銀行に「なぜ・いつ・いくら必要か」を説明する資料としても使われます。納税が重なるのか、設備を買うのか、回収が遅れるのかを金額と時期で示せるからです。
そのため社内では、追加借入を織り込む前の表と、織り込んだ後の表を分けることを勧めます。相談中の融資を先に入金として入れてしまうと、表の上では足りて見え、本来の不足額が消えてしまいます。「借入前にいくら足りず、いつまでに実行が必要で、実行後にどう動くか」の順で説明できる状態が、社内でも銀行でも伝わりやすい形です。
数字を使った具体例
前提:年商12億円の会社で、納税と設備代金が同じ月に重なる
以下は説明用の架空企業です。年商12億円、平均月商1億円ですが、各月の入金額は売上と一致しない前提です。単位は万円で、課税取引は実際に動く税込金額で記入する前提です。
月初に自由に使える現金・預金は5,000万円。初月に法人税等・消費税の納付2,000万円と、未発注の設備を予定どおり購入した場合の支払い2,000万円が重なります。長期借入の元金返済は毎月500万円、短期借入の期日返済と追加借入はない前提です。
| 項目 | 初月 | 翌月 | 翌々月 |
|---|---|---|---|
| 月初残高 | 5,000 | 2,000 | 2,500 |
| 売上代金の入金 | 10,000 | 9,500 | 10,500 |
| 仕入・給与・経費等の支払 | 8,500 | 8,500 | 9,000 |
| 法人税等・消費税の納付 | 2,000 | 0 | 0 |
| 設備代金の支払 | 2,000 | 0 | 0 |
| 長期借入の元金返済 | 500 | 500 | 500 |
| 支出合計 | 13,000 | 9,000 | 9,500 |
| 月末残高 | 2,000 | 2,500 | 3,500 |
「仕入・給与・経費等の支払」には、社会保険料、従業員から預かった源泉所得税・住民税の納付、支払利息を含めています。法人税等・消費税、設備代金、元金返済は別の行に分け、どの月に何が重なるかを見えるようにしています。
計算式と結果
- 初月末:5,000+10,000−13,000=2,000万円
- 翌月末:2,000+9,500−9,000=2,500万円
- 翌々月末:2,500+10,500−9,500=3,500万円
3ヶ月を通した入金合計は30,000万円、支出合計は31,500万円で、月初の5,000万円から1,500万円減って3,500万円に着地します。残高がゼロを割る月はなく、翌々月には回復しています。
ゼロではなく「最低必要資金」と比べる
この会社では、入金遅れや急な支払いに備えて、常に残しておく最低必要資金を仮に3,000万円と決めているものとします。この金額は業界標準ではなく、この会社の仮定です。実務では、給与日・仕入支払日に集中する金額、回収条件、借入の実行までにかかる期間から各社で決めます。
初月末の残高2,000万円を最低必要資金3,000万円と比べると、3,000−2,000=1,000万円の備え不足です。月末残高がプラスでも、この月は「安全な範囲を下回る月」として扱います。
社長が取るべき判断
判断の順番は次のとおりです。第一に、1,000万円は月末時点の試算にすぎないため、初月の給与日や仕入支払日の前後を日次に分解し、月中にもっと低くなる日がないかを確かめます。第二に、未発注の設備2,000万円を翌々月以降へずらせないか、分割払いにできないかを検討します。それだけで初月末の残高は最低必要資金を上回ります。第三に、設備を予定どおり進めるなら、不足が見えている今の段階で銀行に資金使途と実行希望時期を伝え、借入の金額と返済額を決めます。
「月末がプラスだから大丈夫」ではなく、「備えの線を割る月があるから、設備の時期か資金調達のどちらで埋めるかを今決める」が、資金繰り表を使った判断です。
初月の資金の動き(単位:万円)
月初の資金
5,000
当月の資金減少
−3,000
月末の資金
2,000
1,000万円の対策が必要
自社で確認するポイント
数字は必ず根拠資料とセットで確認する
- 現金・預金:全口座の残高を合計したか。担保定期など自由に使えない預金を分けたか。帳簿残高との差を説明できるか。
- 売掛金の回収予定:請求書と得意先ごとの回収条件を照合したか。検収待ち、入金遅延、特定の得意先への集中はないか。
- 仕入・外注の支払予定:届いた請求書だけでなく、発注済みで請求書が未着の分も入れたか。
- 給与・賞与・社会保険料:支払日と金額を確認したか。預かった税金の納付を含め、漏れや二重計上はないか。
- 納税:法人税等・消費税の中間納付を含め、納付額と時期を確認したか。
- 設備投資:契約時・納品時などの支払条件を反映したか。「検討中」と「契約済み」を区別したか。
- 借入返済:返済予定表と照合したか。長期借入の毎月返済と、短期借入の期日一括返済を分けて把握したか。
- 予実差:前回の予測より残高が減った理由を、入金の遅れ・支出の増加・記入漏れのどれかに分けて説明できるか。
社長への報告は3つの数字にそろえる
明細の管理は経理に任せ、社長への報告は次の形に固定すると、毎回同じ目線で判断できます。
- 資金が最も少なくなる日と、そのときの残高
- 最低必要資金との差額
- 対策を決める期限と、実行する期限
残高の見込みが前回から大きく動いた場合は、理由と対応する責任者を添えて報告するルールにしておくと、社長が「なぜ変わったのか」を聞き直す手間が減ります。
よくある間違い
売上予算を、そのまま入金欄に書く
売上予算は「売る計画」で、入金予定ではありません。翌月末回収なら翌月の欄へ移し、検収後の支払いや分割入金がある取引は個別に反映します。未回収の売上を預金と同じように扱うと、表全体が楽観的になります。
月末残高だけを見て安心する
月末に大口入金があっても、その前の給与日や仕入支払日に残高が足りない可能性があります。月次で余裕が小さい月は、日付ごとの入出金に分解してください。同じ日に入金と引き落としがある場合、入金確認より先に引き落としがかかる口座もあるため、口座間の資金移動も含めて確認します。
未確定の借入で残高を合わせる
不足額と同じ金額の借入を入力すれば、表の上では足ります。しかしそれは対策の完了ではありません。借入予定には「相談中」「審査中」「契約済み」といった状況と実行予定日を付け、未確定分を除いた残高も必ず残しておきます。
減価償却費を支出に入れ、元金返済を落とす
資金繰り表では、減価償却費は支出に入れません。設備代金は実際に支払う時点で計上します。反対に、借入の元金返済は費用ではなくても支出として入れます。試算表の費用をそのまま転記すると、この2つを取り違えやすいので注意してください。
経理に丸投げし、予定の変更が届かない
受注の延期は営業が、追加発注は購買が、設備計画の変更は社長自身が先に知っています。その情報が経理に届かなければ、計算が正しくても予測は外れます。本記事では、毎週決まった日に各部門から変更を集め、経理が更新し、社長が対策を決めるという分担を勧めます。
次にやること
- 今日の使えるお金を確定する。全口座の残高と現金を確認し、資金繰り表の出発点を実残高に合わせます。
- 直近3ヶ月の予定を埋める。回収予定、支払予定、納税、返済、設備代金を並べます。金額が不明な項目は空欄にせず、概算と確認担当者をメモします。
- 最少残高と期限を特定する。最低必要資金を下回る時期を探し、その前後を週次・日次に分解して、本当に危ない日を確定します。
- 対策を決める。回収遅延の解消、未発注投資の時期見直し、資金調達の相談など、実行できるものを選びます。合意・確定していない効果は基本の予測に混ぜません。
- 更新の担当者と更新日を固定する。直近の精度を上げながら、予測を6〜12ヶ月先まで延ばします。月が終わったら実績に置き換え、予測との差を確認します。
最初に目指すのは、きれいな表ではありません。「いつ、いくら必要で、誰がいつまでに動くか」を決められる表です。
よくある質問
Q. 資金繰り表はExcelで作ってもいいですか?
A. 問題ありません。月末残高の計算と翌月への繰越を数式でつなぎ、入力欄と計算欄を分けておけば十分に機能します。複数人で更新するなら、最新版の保存場所と更新担当者を決めておくことを勧めます。
Q. 何ヶ月先まで作ればいいですか?
A. 本記事では、まず直近3ヶ月を作り、少なくとも3〜6ヶ月先まで見通し、その後必要に応じて6〜12ヶ月先まで延ばす方法を勧めています。賞与、納税、季節的な仕入のピークが視野に入る期間を確保してください。直近に不足の可能性がある場合は、期間を延ばすより先に日次で不足日を確定します。
Q. 税抜と税込、どちらで作りますか?
A. 実際に口座から動く金額で作るため、課税取引は原則として税込で記入します。給与や借入返済のように消費税がかからないものに税額を加えるわけではありません。消費税の納付は別の支出行に入れ、納付額と時期を確認してください。
Q. 銀行に出すのは、お金が足りなくなってからでいいですか?
A. 不足が予測できた段階で相談するほうが、必要な時期と金額を説明しやすくなります。借入を入れる前の資金繰り表に、資金使途と希望する実行時期を添えて相談してください。表の完成を待つより、判明している不足と未確定事項を早めに共有することを勧めます。
資金繰り表を自社の数字で整理したい方へ
自社の資金が最も少なくなる時期と、そのときに残しておくべき金額を、今すぐ答えられますか。
ご相談では、自社の入出金と返済予定をもとに、資金繰り表の見方、最低必要資金の決め方、先に動くべき対策を整理できます。自社の数字で考えたい場合は、お気軽にご相談ください。
