社長の疑問
「うちは毎月いくら売れば赤字にならない?」
「試算表のどの数字を使えば計算できる?」
「分岐点を超えれば、借入の返済も大丈夫?」
社長が知りたいのは、自社の試算表から分岐点をどう出し、現在の売上との差をどう判断に使うかです。
判断の軸は、固定費を限界利益率で割った売上高を自社の売上がどれだけ上回るか、そして限界利益率と固定費の前提が今後も変わらないかの2点です。
費用の分け方や対象期間が違えば分岐点も変わるため、数字の前提を確かめてから判断します。
結論
端的な答え
損益分岐点売上高は、「固定費÷限界利益率」で計算します。限界利益率は、売上高から変動費を引いた金額(限界利益)が売上高に占める割合です。
判断条件
売上と費用は同じ期間・税抜の金額でそろえ、本業の営業利益がゼロになる売上として計算します。限界利益率がプラスで、固定費と限界利益率が変わらない範囲なら、分岐点を超えた売上の限界利益が営業利益になります。借入元金の返済後にお金が残るかは、損益とは別に資金繰りで確認します。
計算に必要なのは、同じ期間の売上高・変動費・固定費の3つです。分岐点が分かったら現在の売上との差を確認し、値上げ、採算のよい商品の販売、固定費の見直しのどこから着手するかを決めましょう。
なぜそうなるのか
売上のうち、固定費の支払いに使える部分を見る
売上が増えても、その全額が利益になるわけではありません。商品仕入や材料費など、販売に伴って増える費用を先に差し引く必要があります。
売上からこうした変動費を引いた残りが限界利益です。この限界利益で人件費や家賃などの固定費をちょうどまかなえたところが、営業利益ゼロの境目です。固定費を限界利益率で割ると、その境目の売上高を逆算できます。
限界利益=売上高-変動費
限界利益率=限界利益÷売上高
営業利益=売上高×限界利益率-固定費
損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率
計算に使う比率は小数にします。40%なら「0.4」です。売上と変動費から直接求めるなら、固定費÷{1-(変動費÷売上高)}でも同じ結果になります。
費用は、勘定科目名ではなく「売上との動き」で分ける
変動費は販売数量などに応じて増減する費用、固定費は一定の事業規模の範囲で売上が変わっても発生する費用です。
- 変動費の例:販売した商品の仕入原価、使用した材料費、売上に比例する販売手数料。
- 固定費の例:基本給、家賃、定額のシステム利用料、定額法による減価償却費。
- 内訳を分ける費用:基本料金と使用量料金がある水道光熱費、月額契約と出来高払いが混在する外注費。
「外注費だから全部変動費」と決めるのではなく、受注が減ったときに支払額も減る契約かを確認します。人件費も、基本給と出来高連動部分では性質が違います。
売上原価をすべて変動費、販管費をすべて固定費にする方法は概算にとどまります。製造業では売上原価に工場の人件費や減価償却費が含まれ、販管費に売上連動の手数料が含まれることがあるためです。
損益分岐点を超えても、返済資金が足りるとは限らない
この記事の計算は、本業の営業利益がゼロになる売上を求めるものです。支払利息や法人税等、借入元金の返済までは含めていません。
借入元金の返済は費用ではなく、損益計算書には出てきません。一方で、売掛金の回収待ちや在庫の増加によって、利益が出ていても現金が不足することがあります。
銀行への説明も、「本業が黒字になる売上」と「返済後の資金残高」を分けると整理できます。長期借入の年間返済額は、返済に回せるお金の概算である「税引後利益+減価償却費」と比べ、さらに運転資金の増減や設備投資を資金繰り表で確認してください。
数字を使った具体例
月商1億円の会社なら、どこまで売上が下がると赤字になるか
年商12億円相当の架空企業を例にします。以下は1ヶ月分の税抜金額です。減価償却費や賞与なども月次に按分済みとし、計算する範囲では固定費と限界利益率は変わらないと仮定します。
| 項目 | 金額 | 内容 |
|---|---|---|
| 売上高 | 10,000 | 月商1億円 |
| 変動費 | 6,000 | 販売に対応する仕入原価など |
| 固定費 | 3,200 | 人件費、家賃、減価償却費など |
| 営業利益 | 800 | 10,000-6,000-3,200 |
- 限界利益:10,000万円-6,000万円=4,000万円
- 限界利益率:4,000万円÷10,000万円=0.4=40%
- 損益分岐点売上高:3,200万円÷0.4=8,000万円
- 現在の売上との差:10,000万円-8,000万円=2,000万円
売上8,000万円のとき、変動費は8,000万円×60%=4,800万円、限界利益は3,200万円となり、固定費3,200万円とちょうど釣り合って営業利益はゼロです。
売上減少に対する余裕を示す「安全余裕率」は、2,000万円÷10,000万円=20%です。この前提では、売上が現在より20%下がると営業利益ゼロになり、それ以上下がると営業赤字になります。
月間固定費
3,200万円
限界利益率
40%
損益分岐点売上高
8,000万円
固定費・限界利益率が一定の場合。返済後の資金余力を示す数字ではありません。
営業利益1,200万円を目指すなら、必要な月商は1億1,000万円
利益ゼロは経営目標として十分ではありません。残したい利益を含めた売上も、同じ式で求められます。
必要売上高=(固定費+目標営業利益)÷限界利益率
月間の目標営業利益を1,200万円にすると、(3,200万円+1,200万円)÷0.4=11,000万円です。このとき変動費は6,600万円、限界利益は4,400万円で、固定費3,200万円を引いた営業利益は1,200万円になります。
固定費が増えず、限界利益率40%を維持できれば、月商が1,000万円増えるごとに営業利益は400万円増えます。
売上目標を決める前に、利益率と固定費の変化も試す
同じ会社で値引きや仕入価格の上昇により限界利益率が40%から32%に下がると、分岐点は3,200万円÷0.32=10,000万円になります。月商1億円を維持しても、営業利益はゼロです。
また、限界利益率40%のまま採用で月間固定費が400万円増えるなら、増加分を回収するだけでも400万円÷0.4=1,000万円の追加月商が必要です。新しい分岐点は3,600万円÷0.4=9,000万円で、月商1億円を維持した場合の安全余裕率は20%から10%に下がります。
社長が決めるべきは「売上を増やせるか」だけではありません。増える売上の限界利益率と、その売上を取るために増える固定費をセットで見て、目標月商と採用・値引きの可否を判断してください。
自社で確認するポイント
経理に確認する資料と数字
- 直近12ヶ月の月次試算表:売上と費用の季節差、単月の特殊要因を確認したか。
- 総勘定元帳・費用明細:売上原価と販管費の両方から、変動費と固定費を拾ったか。
- 棚卸表:仕入代金の支払額ではなく、販売した商品に対応する原価を使っているか。
- 給与・外注契約・固定資産台帳:固定支払と出来高支払を分け、賞与や減価償却費の月次按分漏れを補ったか。
- 商品別・事業別の売上実績:利益率の低い商品の構成比が増えていないか。
- 採用・増床・設備の計画:今後増える固定費を反映したか。
- 借入返済予定表・資金繰り表:営業利益の計算と、元金返済・納税・設備代金の支払いを分けたか。
分岐点と売上の「差」を、自社の変動幅と比べる
安全余裕率が何%なら十分かは、一律には決められません。季節変動、大口顧客への依存度、価格改定のしやすさによって必要な余裕が変わります。
実務では、過去の閑散月の売上や、最大の取引先がなくなった場合の売上と分岐点を比べてみましょう。資金面は別に、回収条件と月末の資金残高を確認します。
よくある間違い
粗利率で割れば、いつでも正しく計算できる
粗利は「売上-売上原価」、限界利益は「売上-変動費」です。両者は必ずしも一致しません。
粗利率で代用できるのは、売上原価がほぼ変動費で、販管費に売上連動の費用がほとんどない場合です。自社がその条件を満たすかを先に確かめてください。
借入元金の返済を固定費に足してしまう
元金返済を足すと、営業利益ベースの損益分岐点ではなくなり、銀行や税理士と数字がかみ合わなくなります。返済まで含めた資金計画を作る場合は、減価償却費、税金、運転資金の増減も整理し、損益計算とは分けて管理しましょう。
固定費を削れば、必ず経営がよくなる
固定費を下げると、同じ限界利益率なら分岐点は下がります。ただし、人員や設備を削って販売・生産能力が落ちれば、売上と限界利益も失う可能性があります。
部門や取引の停止を考えるときは、失う限界利益と、実際に減る固定費を比較してください。配賦された本社共通費は、停止しても残ることがあります。
売上が増えても、前回の分岐点を使い続ける
値引き、仕入価格の上昇、商品構成の変化があれば限界利益率は変わります。追加採用や増床で固定費が増える場合も、前の分岐点はそのまま使えません。売上計画だけを書き換えず、利益率と固定費の前提も一緒に更新します。
次にやること
今日、経理担当者に依頼すること
まずは次のように依頼してください。
直近12ヶ月について、税抜の売上高と、営業費用を変動費・固定費に分けた一覧を作ってください。分類に迷う費用は別にまとめて相談してください。
最初から細かい科目をすべて完璧に分けようとせず、金額の大きい費用から確認しましょう。分類の根拠を残しておくと、翌月も同じ基準で比較できます。
Excelに3つの数字を入力する
金額の単位を万円などに統一し、B2に売上高、B3に変動費、B4に固定費を入力します。次の式で計算できます。
- B5・限界利益率:
=(B2-B3)/B2。表示形式をパーセントにします。 - B6・損益分岐点売上高:
=B4/B5 - B7・営業利益(試算表と照合):
=B2-B3-B4 - B8・安全余裕率:
=(B2-B6)/B2。表示形式をパーセントにします。
この入力例は、売上高と限界利益率がともにプラスの場合に使います。B7が試算表の営業利益と一致しない場合は、費用の漏れや二重計上、対象期間の違いを確認してください。
計算結果を、1つの経営判断につなげる
- 現状を出す:分岐点と現在の売上との差を確認する。
- 目標を出す:残したい営業利益から必要売上高を逆算する。
- 改善案を比べる:価格・商品構成・固定費の前提を変え、実現できる案を選ぶ。
- 担当と期限を決める:価格交渉、契約見直し、販売方針など、今月の行動に落とす。
- 翌月に更新する:売上だけでなく、限界利益率と固定費の変化を確認する。
「もっと売る」で終わらせず、「どの売上を、どれだけの限界利益で増やすか」まで決める。そこまで進めて、損益分岐点の計算を経営に使いましょう。
よくある質問
Q. 決算書だけでも損益分岐点売上高は出せますか?
A. 概算はできます。ただし、売上原価と販管費を変動費・固定費に分けるため、内訳明細が必要になる場合があります。年間費用で計算した結果は年間の分岐点です。12で割った数字は月平均にすぎず、季節変動が大きい会社は月次でも確認してください。
Q. 減価償却費は、お金が出ていかなくても固定費に入れますか?
A. 営業利益ベースで計算する場合は、原則として入れます。今回の例でも固定費に含めています。減価償却費を除いた資金面の分析は別の計算になるため、同じ「損益分岐点」として混ぜないでください。
Q. 商品や事業が複数ある場合、限界利益率は平均すればよいですか?
A. 各商品の率を単純平均するのではなく、全体の限界利益合計を売上高合計で割ります。今後の商品構成が変わるなら、計画上の売上と変動費から率を計算し直してください。会社全体の分岐点には、本社共通費も含めます。
Q. 限界利益率がゼロやマイナスでも計算できますか?
A. 固定費がプラスなら、通常の式で黒字化に必要な売上高は求められません。率がゼロなら売上を増やしても固定費を回収できず、マイナスなら同じ条件では売るほど損失が増えます。まず販売価格、仕入条件、変動費の計上内容を見直してください。
利益構造チェック
自社の売上は、損益分岐点からどれくらい離れていますか。売上を増やす前に、利益率と固定費のどちらに改善余地があるかを確認しておきましょう。
自社の試算表を使い、費用の分け方、赤字にならない売上、目標利益に必要な売上を一緒に整理できます。利益構造の無料相談をご利用ください。
