社長の疑問

「事業計画書には何をどこまで書けばいい?」

「すでに借入があっても、追加で借りられる?」

「売上の見込みはどう説明すればいい?」

知りたいのは様式の埋め方より、この計画で必要額を説明でき、既存借入も含めて無理なく返せるかどうかです。

まず、税引後利益と減価償却費の合計を既存借入を含む年間元金返済額と比べ、運転資金の増加や設備支出を織り込んでも、支払月の手元資金が不足しないか確認します。

設備資金か運転資金か、既存借入がどれだけあるかによって、説明すべき返済原資と資金繰りの見せ方が変わります。

結論

端的な答え
銀行融資の事業計画書は、「何にいくら必要か(資金使途・必要額)」「何を根拠に利益を出すか」「既存借入も含めてどう返すか」「月ごとの資金は足りるか」を、一つの筋でつなげて書く資料です。要点を1枚にまとめ、その裏付けとして損益計画・月次資金繰り表・借入一覧を添付します。

判断条件
長期借入については、税引後利益+減価償却費と、既存分を含む年間の約定元金返済額を比較します。そのうえで、運転資金の増加や今回以外の設備支出を引いても現金が残るか、最も資金が薄くなる月に支払いが回るかを月次資金繰り表で確認してください。ここが崩れる計画は、文章だけを整えても返済の見通しを十分に説明できません。

年商5〜30億円程度の既存企業であれば、創業の動機や理念を長く書くより、現在の実績から出発して、借入後に数字がどう変わり、どう返済するかを説明する方が重要です。銀行から指定様式が示されている場合は、その様式を優先し、本記事の考え方を記入内容の整理に使ってください。

なぜそうなるのか

銀行は資金使途と返済の見通しを数字で確認する

銀行に提出する計画では、事業の魅力だけでなく、資金使途が妥当か、必要額が過不足なく計算されているか、返済原資が見込めるか、業績が下振れしたときにどうするかを説明する必要があります。公的な支援資料でも、資金繰りの見通しや改善策を数字と行動計画に落とし込む考え方が示されています。

そのため、事業計画書は「資金が必要になる理由」から「返済」までを一つの筋でつなぐ構成が合理的です。次の7項目を骨組みにしてください。

銀行融資の事業計画書に書く7項目
項目 書く内容 裏付ける資料
1.会社と商売の特徴 誰に何を売り、なぜ選ばれているか 会社概要、主要取引先別売上
2.実績と課題 直近3期の売上・利益の変化と、その理由 決算書、直近試算表
3.資金使途と必要額 支払先、金額、支払日、自己資金、借入希望額 見積書、契約書、資金繰り表
4.実行する施策 誰が、いつまでに、何を変えるか 行動計画、導入工程表
5.売上・利益の根拠 数量、単価、原価、人員などの前提 受注一覧、原価資料、損益計画
6.返済と資金繰り 既存分を含む返済額、返済原資、月末資金の推移 借入一覧、返済予定表、月次資金繰り表
7.下振れ時の対応 受注や回収が遅れたとき、誰が何を見直すか 慎重ケースの計画、対応の判断条件

4の施策は、「営業を強化する」で終わらせないことがポイントです。「営業責任者が既存顧客への追加提案を進め、受注確定分と商談中の案件を分けて毎月確認する」のように、人と期限と確認方法まで書きます。5の売上根拠では、確定している受注と見込みを混ぜないでください。区別がつかなければ、計画の前提を判断しにくくなります。

損益計画・資金繰り表・借入一覧は役割が違う

3つの資料は似て見えますが、確認する内容が異なります。損益計画は「利益が出るか」、資金繰り表は「支払日に現金があるか」、借入一覧は「どの金融機関に、いつ、いくら返すか」を示す資料です。

日本政策金融公庫の経営改善計画書の記入例には、損益の実績・計画と借入金の内訳を整理する欄があります。また、中小企業庁が案内する早期経営改善計画では、アクションプラン・損益計画・資金繰り表を組み合わせます。提出先や目的は異なりますが、利益の見通しだけでなく、借入状況と現金の動きを併せて確認することが大切です。

売上が増えても、入金より先に仕入や給与の支払いが来れば、資金は一時的に減ります。計画を作るときは、売上を計上する月と実際に入金される月を分けてください。

長期借入と短期借入では「返すお金の出どころ」が違う

設備資金のような長期借入は、事業から継続的に生まれる資金で返す計画を立てます。簡易的な目安として使えるのが「税引後利益+減価償却費」です。減価償却費は、設備の取得額を使用期間に応じて費用に配分したもので、計上時に同額の現金支出が生じるわけではありません。そのため利益に足し戻します。ただし、この合計がそのまま自由に使える現金ではない点は、後の具体例で説明します。

一方、売掛金や在庫の増加に対応する一時的な短期借入は、対象となる売上代金の回収予定と返済期日を対応させて説明します。継続的に必要な運転資金については、長期借入や短期継続融資などの方法を銀行と相談します。短期継続融資は、期日に書き換える際、銀行がその時点の業況や資金需要を踏まえて継続を判断するもので、更新が自動的に約束されるわけではありません。

数字を使った具体例

前提:年商12億円の製造業が設備資金6,000万円を借りる

以下は書き方を説明するための架空の例です。業界平均や審査基準を示すものではありません。単位は万円です。

  • 製造業、年間売上高120,000万円。
  • 今回の設備支払額6,000万円を、全額新規借入で調達する。
  • 新規借入は60ヶ月の元金均等返済、据置期間なし。毎月の元金返済は100万円。
  • 既存の長期借入の年間元金返済額は2,400万円。
  • 導入後12ヶ月の税引後利益は3,000万円、減価償却費は2,000万円。税引後利益には、新規借入の利息と新設備の減価償却費を反映済み。
  • 増収に伴う運転資金の純増額は600万円、今回の設備とは別の小口の更新投資が500万円。

新規借入と設備支払いは計画期間の開始直前に同額で実行し、その後12ヶ月分の返済と利益を比較します。簡略化のため、税金の計上時期と支払時期の差、配当、その他の資金増減はないものとします。

計算式:返済後の差額から、さらに必要な支出を引く

① 返済に回せるお金の簡易目安
税引後利益3,000+減価償却費2,000=5,000万円

② 既存分を含む年間元金返済額
新規分:6,000÷60ヶ月×12ヶ月=1,200万円
既存分2,400+新規分1,200=3,600万円

③ 返済後の差額
5,000−3,600=1,400万円

④ 運転資金増加・更新投資を反映
1,400−600−500=年間の現金増加額300万円

結果:元金は返せる見込みでも、現金はほとんど増えない

返済原資の簡易目安5,000万円は、年間元金返済3,600万円を上回っています。しかし、増収で必要になる運転資金と別の更新投資を引くと、計画期間中の現金増加額は300万円にとどまります。今回の設備代金6,000万円は新規借入と対応させているため、④で重ねて差し引いてはいません。

さらに、税引後利益が2,200万円に下振れし、ほかの前提が変わらない慎重ケースでは、2,200+2,000−3,600−600−500=年間500万円の現金減少になります。利益が800万円減るだけで、年間の現金収支はプラスからマイナスに変わります。

「返せる計画」と「お金が残る計画」は分けて確認する

返済原資の簡易目安

5,000万円

税引後利益+減価償却費

年間元金返済

3,600万円

既存2,400+新規1,200

返済後の差額

1,400万円

まだ全額は自由に使えない

運転資金増加600万円・更新投資500万円を引くと、年間の現金増加額は300万円

社長が取るべき判断

この例の社長が事業計画書に書くべきことは、基本ケースの数字だけではありません。下振れ時に使える手元資金がいくらあるか、延期できる支出はどれか、利益が計画を下回ったときに誰が何を見直すかまで記載します。これが「7.下振れ時の対応」の中身です。

もし手元資金に余裕がなく、慎重ケースで生じる年間500万円の現金減少を吸収できないなら、投資額を抑える、返済期間の延長を相談する、実施時期をずらす、といった見直しを銀行面談の前に検討します。また、年間で300万円増える計画でも、賞与や納税が重なる月に一時的に不足することがあります。最終判断では年間の合計だけでなく、月次資金繰り表で最も資金が薄くなる月を確認してください。

自社で確認するポイント

数字の出どころと、資料同士の一致を確認する

提出前に、文章の内容だけでなく、資料の数字がつながっているかを確認してください。

  • 決算書・試算表:計画の出発点が直近の確定実績と一致しているか。一時的な利益(補助金、資産売却益など)を毎年の利益として扱っていないか。
  • 見積書・支払予定:設備本体だけでなく、設置費・運搬費・付随工事などを含めた支払総額になっているか。税込・税抜が混在していないか。
  • 売上の積み上げ:主要取引先別・商品別に、数量・単価・開始時期を説明できるか。確定受注と見込みを分けているか。
  • 費用の前提:採用費、人件費の増加、原材料費、新設備の減価償却費、新規借入の利息を損益計画に反映したか。
  • 借入一覧:すべての金融機関の残高、毎月の元金返済額、最終期日を記載したか。短期の期日一括返済を長期の約定返済と分けたか。
  • 月次資金繰り表:売掛金の回収サイト、仕入支払、賞与、納税、設備代金の支払月を反映したか。
  • 下振れ対応:どの数字がどこまで悪化したら、誰が何を見直すかを決めたか。

特に見ておきたいのは、計画期間中に手元資金が最も少なくなる月です。その月から翌月にかけての給与と仕入支払いに対応できるかを確認してください。必要な余裕の大きさは、業種、回収条件、入金の集中度によって変わるため、自社の月次の動きで判断します。

よくある間違い

「売上を伸ばす」と書けば計画になる

売上目標だけでは根拠が不足し、その売上が実現するか判断しにくくなります。既存顧客の継続分、新規の受注確定分、商談中の見込みを分け、それぞれの数量・単価・開始時期を示したうえで、原価や追加人員まで損益に反映してください。

今回借りる分だけ返せればよい

追加融資の返済が始まっても、既存借入の返済は止まりません。会社全体の返済負担を示すため、返済原資の簡易目安と、既存分を含む年間元金返済額の合計を比較してください。新規分だけを比べた計画では、全体の返済見通しを説明できません。

利益が出るなら資金繰り表はいらない

利益と現金は同じではありません。増収局面では売掛金や在庫が先に増え、入金は後から来ます。具体例で見たとおり、返済原資の簡易目安が返済額を上回っていても、運転資金の増加や設備支出を引くと現金はほとんど増えないことがあります。簡易計算だけで結論を出さず、月次資金繰り表まで作ってください。

専門家に作ってもらえば、社長は説明しなくてよい

資料作成を任せることと、経営判断を任せることは別です。銀行面談に備え、社長自身が「なぜこの金額が必要か」「利益が増える根拠は何か」「遅れたらどうするか」を自分の言葉で説明できるようにしておきます。計画を作成する過程で経営者が自社の状況と資金繰りを把握することも重要です。

次にやること

銀行への確認から月次更新までの5ステップ

  1. 銀行担当者に提出条件を確認する。資金使途、借入希望額、必要時期を伝え、指定様式の有無、計画期間、添付資料を聞きます。
  2. 経理担当者と数字をそろえる。直近の試算表、支払予定、全行の返済予定表を同じ基準日で集めます。
  3. 要点を1枚にまとめる。文章を整える前に、必要額・利益の根拠・返済計画の間に矛盾がないかを確かめます。
  4. 基本ケースと慎重ケースを比較する。慎重ケースで資金が不足するなら、投資額、実施時期、希望する返済期間を見直してから面談に臨みます。
  5. 面談後も毎月更新する。計画と実績の差、その理由、次の対応を確認し、銀行への報告時期を決めます。計画は提出して終わりではなく、次の融資相談の土台になります。

冒頭1枚には、このひな形を使う

以下の5つの文に自社の数字を入れると、資金使途から返済までの要点を整理できます。冒頭1枚を作る際のたたき台にしてください。

借入の目的:当社は[課題]を解決するため、[施策・設備]を[時期]に実施します。

必要額と時期:総額[ ]万円のうち、自己資金[ ]万円、借入希望額[ ]万円です。支払予定日は[ ]です。

利益の根拠:[受注・販売数量・原価削減などの根拠]により、実施後の年間税引後利益[ ]万円を見込みます。

返済計画:減価償却費は年間[ ]万円、既存分を含む長期借入の年間元金返済額は[ ]万円です。希望する返済期間は[ ]ヶ月です。

資金繰りと対応:運転資金増加・設備支出を織り込んだ月次資金繰り表を添付します。[下振れの条件]になった場合は、[責任者]が[対応]を実施します。

書き始める順番は、会社紹介ではなく「必要額と時期」からで構いません。そこが決まると、利益や返済条件について検討すべき数字が明確になります。

よくある質問

Q. 何年分、何ページくらい作ればいいですか?

A. まず銀行の指定を確認してください。指定がなければ、要点1枚に、今後3年の年次損益計画、直近から12ヶ月の月次資金繰り表、借入一覧を付ける構成を出発点にできます。これは本記事の提案であり、すべての銀行に共通する要件ではありません。長期の設備融資であれば、返済期間全体の見通しも補足すると説明しやすくなります。

Q. 税理士に作成を頼んでも大丈夫ですか?

A. 依頼できます。会計数値の整合、税額や減価償却費の見積もりは、税理士と確認するとよいでしょう。ただし、売上の根拠と実行する施策は、社長と現場責任者が決めてください。完成後は、社長が冒頭1枚の内容を自分の言葉で説明できるか確認します。

Q. 前期が赤字でも、事業計画書は作った方がいいですか?

A. 赤字の原因と、改善するまでに必要な資金を分けて整理するために役立ちます。黒字化する時期だけでなく、それまでの資金不足額、改善策の責任者、売上が戻らない場合の対応も記載してください。慎重ケースを含めて、資金繰りの見通しを説明できる状態にしておきます。

借入余力チェック

今回の借入を加えても、既存分の返済と、最も資金が薄くなる月の支払いを両立できるでしょうか。

自社の数字で必要額、返済原資、資金が薄くなる月を整理したい方は、無料相談をご利用ください。

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